「ピノ・ノワールを良く知る」シリーズ③
第3回のこのシリーズでは、世界各地の「ピノ・ノワールの栽培」と造られる「ワイン」を具体的に紐解きます。主なブドウ栽培産地の動向や特徴、国・地域ごとのワイン製造上の特徴や色合い、香り、風味を解説します。まずは、フランスから。
〇ブドウなのに「黒い松ぼっくり」・・・名前の由来
〇寒冷地で育つ小顔の貴公子・・・ブドウの特徴
〇育て方が難しい貴公子・・・ブドウの特徴
〇人気の貴公子にも辛い事情がある
・・・大量には栽培されていない
〇気難しいピノ・ノワール
・・・大量生産に向かない理由
〇多くのブドウ品種のルーツの一つ
・・・ピノ・ノワールの家系図
〇別名の宝庫ピノ・ノワール・・・シノニム
〇ワインは繊細で高貴
・・・ピノ・ノワールは上品なワインを造る
〇ワイン検定(ブロンズ)記載内容
シリーズ③ 「ピノ・ノワールの世界の主なワイン産地とフランス」
〇世界の主なワイン産地
〇【フランス】ブルゴーニュ地方
〇シャンパーニュ地方
〇アルザス地方・ロワール地方
〇【米国】カリフォルニア、オレゴン
〇【ドイツ】バーデン、ファルツ
シリーズ⑤ 「ピノ・ノワールの主要産地(ニュージーランド・イタリア)」
〇【ニュージーランド】セントラル・オタゴ、マーチンボロ他
〇【イタリア】トレンティーノ・アルト・アディジェ他
シリーズ⑥ 「ピノ・ノワールの主要産地(オーストラリア・チリ・日本)」
〇【オーストラリア】ヤラ・ヴァレー他
〇【チリ】サン・アントニオ・ヴァレー他
〇【日本】北海道他
〇料理とのマッチング
世界の主なワイン産地
ピノ・ノワールは世界各地で栽培されていますが、ほとんどは冷涼な気候の地域です。
現在世界各地のピノ・ノワールは赤ワインに用いられているほか、シャンパーニュやイタリアのフランチャコルタ、イングランドなどの白のスパークリングワインにも使用されています。
ピノ・ノワールの赤ワインで高い評価を受けている地域には、ブルゴーニュ以外にアメリカ合衆国のオレゴン州およびカリフォルニア州、オーストラリアのビクトリア州、 ニュージーランドのマーティンボロやセントラル・オタゴ、ドイツのバーデンなどがあります。
ピノ・ノワールの栽培面積を多い順に示すと以下です。
1.フランス、2.アメリカ、3.ドイツ、4.ニュージーランド、5.イタリア、6.オーストラリア、7.スイス、8.チリ
グラフの中は2016年の栽培面積ですが、近年ニューワールドが栽培面積を伸ばしています。(2000年との比較)
出典:Which Winegrape Varieties are Grown Where?(Revised Edition)by Kym Anderson and Signe Nelgen、この中で、特に、アメリカが4倍(5,300ha⇒23,000ha)、ニュージーランドが5倍(1,100ha⇒5,500ha)と大幅に栽培面積を伸ばしています。
フランス・ブルゴーニュ地方・・・特に、コート=ドール県
ブルゴーニュにはボジョレー地区を除くと約3万haの畑があります。その畑の約40%でピノ・ノワールが栽培されています。ですから「フランスでピノ・ノワールといえばブルゴーニュ」のイメージでしょうが、フランス国内の栽培面積でいえば1/3強の栽培面積でしかありません。
しかし、ブルゴーニュは世界のピノ・ノワールの王といってよいほど高品質な赤ワインを生み出しています。その多くがコート・ドールからの発信です。
例えば、ロマネ・コンティ、シャンボール・ミュジニー、ジュヴレ・シャンベルタン、ヴォーヌ・ロマネ、クロ・ド・ヴージョなどですが、これらは一度は耳にしたことのある銘柄でしょう。
ブルゴーニュはなぜ高品質なワインを生み出しているのでしょうか?その理由は次にあります。
ブルゴーニュ地方の土壌は石灰質や粘土石灰質といった、世界的にも類を見ない好条件が揃っています。ですから赤ワインはその大半がブドウ品種としての特性を発揮できるピノ・ノワールを単独で使います。ただ、同じブルゴーニュ内でも場所によって土壌や地形が少しづつ異なります。このため生産者は区切った区画(クリマ)の畑でその区画の個性をピノ・ノワールに付加してワイン造りをしています。
フランスには、ワインの格付け制度があり、特にブルゴーニュでは、ブドウのとれる畑によって広域・村名格・1級畑・特級畑という格付けを行い、ワインの品質を保証しています。
このようにブルゴーニュ地方では、ワインが『どの区画(クリマ)で造られたものか』を重んじていて、ボトルには生産者や品種よりも、ブドウの栽培地域やクリマを表記しています。 地域ごと・畑ごとに風味が異なることを比べて楽しむ。テロワールを感じることがブルゴーニュワインなのです。
風味の特徴
繊細で複雑な香りと果実感のある酸味が特徴です。
前述のように繊細な品種ですので、その年の気候や畑などによって風味は多様になりますが、果実味やアルコール度数は控えめで、赤いベリーのエレガントな香り、樽由来のバニラの香りや熟成による紅茶などの香りも繊細で、複雑性が感じられます。
酸味は凛としていて、まろやかな渋みとのバランスがよく、世界の他の地域と比べても最も控えめで引き締まっています。
シャンパーニュ
ピノ・ノワールはスパークリングワインの材料としても非常に重要です。シャンパーニュ地方においては、シャルドネやムニエ(黒ブドウ)とブレンドすることで、あるいはピノ・ノワール単独で、数多くの偉大なスパークリングワインを生み出しています。
シャンパーニュでのピノ・ノワールの栽培面積は、スパークリングワイン用の品種のなかでもが最大 (38%) であり、重要な役割を担っています。
シャンパーニュには主要な3地区があります。
モンターニュ・ド・ランス地区(Montagne de Reims)、ヴァレ・ド・マルヌ地区(Valle de la Marne)、コート・デ・ブラン地区(Cote des Blancs)の3地区ですが、それぞれの地区の地形や土壌の特性から主要な栽培ブドウ品種が異なります。
順に、ピノ・ノアール、ムニエ、シャルドネです。
モンターニュ・ド・ランス地区でピノ・ノワールの栽培が最も多くされていますが、実は、主要都市ランス(Reims)から南に150km離れたコート・デ・バール地区でも肉厚でスパイシーなピノ・ノワールが造られています。
ピノ・ノワールで造るシャンパーニュの味わい
スパークリングワインは「瓶内2次発酵」や「ドサージュ(糖分調整)」によっても大きく味わいが変わるので、「ピノ・ノワール自体の味」を的確に言い表すことは難しいです。
ただ、ピノ・ノワール100%でつくる「ブラン・ド・ノワール」のスパークリングワインは、旨味をともなうような果実感を感じさせ、味わいにボディと骨格をもたらしています。
余談ですが、映画「007」に度々登場するシャンパーニュはピノ・ノアールでの造り手「ボランジェ」によるものです。
また、世界中の冷涼産地においてもシャンパーニュのスタイルにならって、シャルドネとピノ・ノワールから様々なスパークリングワインが造られています。
ちなみに、通常の辛口赤ワイン用に栽培するピノ・ノワールは、他の多くの品種よりも概して収量や生長量を少なくするのに対し、 (シャンパーニュなどの) スパークリングワイン用に栽培する場合は、一般的に著しく収量を高くして収穫しています。
アルザス地方・ロワール地方
アルザス地方
アルザス地方は、リースリング、ピノ・ブラン、ゲヴルツ・トラミネール、ピノ・グリなどの白ワインの独壇場です。栽培面積はこの4品種がそれぞれ8,000ha前後(2017年)であるのに対し、黒ブドウの栽培はピノ・ノワールのみで栽培面積は約3,900haに留まっています。しかし、最近の温暖化の影響、並びに、ブルゴーニュワインの流行に引っ張られる形でピノ・ノワールが注目を浴びだしています。
アルザスは自然派の栽培や醸造が基本で、軽やかで繊細な味わい、柔らかなタンニンの飲みやすいワインが主流です。しかし近年は、新樽での風味や凝縮したワインを造る生産者も出てきています。
ロワール地方
ロワール地方はロワール川流域に長く分布し、4つの地区に分類されます。地域によって個性豊かなワインを産み出している一大ワイン産地。
そんな中でもピノ・ノワールの銘醸地として名高いのは、ロワール川上流部のサントル=ニヴェルネ地区です。このサントル・ニヴェルネでは、透明感のある軽やかなものが多く造られています。特に、サンセールというとソーヴィニョン・ブランの白ワインが有名で、ピノ・ノワールの栽培量は2割程度にしか過ぎませんが、実はピノ・ノワールがその発祥の原点にあり赤ワインも上質です。
味わいはブルゴーニュに負けず劣らず繊細で、淡い色ながらも薫り高くミネラル豊かなものです。フランスではよく選ばれていますが、残念ながらフランス以外では見かけることが少ないようです。