Asti

アスティ(Asti)・・・スパークリングワイン・シリーズ⑨

 スプマンテ・シリーズの第4回目は、アスティ(Asti)について詳しく解説します。
産地、種類、使用ブドウ品種、製造方法、規定、味わい、歴史、主な生産者などについて述べます。

アスティとは

 北イタリアのピエモンテ州南部に位置するアスティの周辺で造られ、1993年にDOCGに認定されました。モスカート・ビアンコ種を原料としたものが多く、発泡度の低いスプマンテ(モスカート・ダスティなど)と、発泡度の高いアスティ(もしくはアスティ・スプマンテと呼ばれる)があります。
 アスティ(アスティ・スプマンテ)は泡立ちが強く、アルコール度は8%程度。一方で微発泡のモスカート・ダスティ(Moscato D’asti)はアルコール度が5%程度とアスティより低いものです。ラベルにアスティと書かれていればしっかりとした泡立ち、モスカート・ダスティと書かれていれば弱い発泡です。
 なお、2017年の改定により従来の規定よりも残糖度が低い辛口のものもDOCGに認定されました。これはアスティ・セッコと呼ばれます。従来のアスティの残糖度は100g/lと甘いのですが、アスティ・セッコは30g/lと1/3程度に低く甘さ控えめですっきりした味わいです。一般のスパークリングワインの甘辛度での分類では「やや辛口」に属します。

アスティ①

アスティの産地

 ピエモンテ州アスティの産地は広く、アスティ県を中心にクーネオ県、アレッサンドリア県にも跨り、52の村で生産が認められています。畑の総面積は約9,700ヘクタールで、ブドウ栽培農家は4,000社以上にのぼります。生産本数は年間約1,500万本です。
 このエリアは丘陵地帯で、モスカート・ビアンコが栽培されている畑は傾斜の強い場所が多いです。畑全体の約15%が傾斜40度以上、約3%は50度を超える崖のような畑です。
 この丘陵地帯に連なるぶどう畑は、「ピエモンテのブドウ畑の景観、ランゲ=ロエーロとモンフェッラート」として2014年にユネスコの世界文化遺産に登録されています。
 アスティの産地の中でも、またカネッリ、サンタ・ヴィットーリア・ダルバ、ストレヴィの3つの地区がソットゾーナ(小地区)に認められており、地区名をラベルに表記する事ができます。石灰分を含む土壌が多く、特に石灰分の強い畑から香り高いワインが生まれています。

アスティ
アスティ
ASTIとその小地区
ASTIとその小地区

アスティの種類と特徴

 ブドウ品種「モスカート・ビアンコ」で造られるアスティは4種類ありますが、発泡ワインは3種類です。

アスティ・スプマンテ(Asti Spumante)
  スパークリング(炭酸)甘口白ワイン。アルコール度数6~9.5%。

モスカート・ダスティ (Moscato d’Asti)
  微発泡性(微炭酸)甘口白ワイン。アルコール度数4.5~6.5%。

アスティ・セッコ (Asti Secco)
  スパークリング(炭酸)辛口白ワイン。アルコール度数約11%。2017年に登場。


  アスティの2つのタイプ、アスティ(アスティ・スプマンテ)とモスカート・ダスティは共にフレッシュなマスカットのフルーティさを愉しむ甘口タイプのワインです。
モスカート・ダスティの方が弱い発泡でアルコール度は4.5~6.5%と低いため口当たりは優しく、モスカート・ビアンコ(=マスカット)の風味がしっかりと生きています。

アスティの歴史

 アスティの町の歴史は古く、古代ローマ(紀元前753~紀元後476年)以前にさかのぼります。リグーリア人(古イタリア人)が町を起こしました。アスティとは彼らの言葉で「丘」ということです。古代ローマ時代以来、交通の要所となり、10世紀には司教が納める自治都市になりました。この地域は古くからワイン生産の地域でもあり、アスティは中心都市でした。
 ワインとしてのアスティは1865年カルロ・ガンチアがフランスから製法を持ち帰って造りロマを活かすためにはシャルマ方式が適していると考え、大型タンクでの二次発酵に切り替え、今日のアスティが生まれました。

Asti カネッリの丘①

ブドウの使用品種

 アスティのぶどうは100%モスカートビアンコ種と決められています。モスカート・ビアンコ種は、モスカート系というブドウ品種のひとつです。一般的にはモスカートと言えばイタリアで広く栽培されているマスカット系のブドウ全てを指し、白ワインになるブドウから赤ワインになる果皮の黒いブドウまで幅広くあるブドウ品種群の名称となっています。
 モスカート・ビアンコは大変歴史の古いぶどう品種で、起源は古くギリシャが原産と言われており、古代ローマ時代に地中海沿岸全域に伝わった品種です。ピエモンテ州だけではなくイタリア全土で栽培されていて、南イタリアではブドウを干して甘口にすること(パッシート)が多いです。

 マスカット系の品種の中で最も香り高く、オレンジや藤の花などを連想させる華やかさと、フルーティさ、そしてマスカットの名前の由来となった麝香(ムスク)の香りを併せ持つ品種です。
 フレッシュさと香りが特徴のぶどう品種なので、醸造もその特徴を活かす形で行われます。また、ワインの材料ばかりでなくデザートやレーズンなど様々な形で使用されています。
その汎用性の高さから、モスカートは世界中で栽培されており、地域や栽培法によって味わいが異なってくるのもモスカートの特徴です。

 ちなみに、この「モスカート」は、イタリア語でのマスカットの呼び名です。日本では「マスカット」、フランスでは「ミュスカ)」、スペインでは「モスカテル」と呼ばれています。
モスカートの名前の由来は、ブドウにハエ(Musca)が集まることから呼ばれる様になりました。

モスカート・ビアンコ

アスティの製法

 アスティとモスカート・ダスティは大きな密閉タンク内で一次醗酵で発生する泡を閉じ込める製法です。これはアンセストラル方式というやり方に似た製法ですが、アンセストラル方式がタンクで醗酵途中のワインを瓶に入れて瓶の中で泡をつくるのに対して、全てタンク内で行うというのが違いです。アンセストラルとシャルマの折衷方式と言えます。

 多くのスパークリングワインは一度スティルワインをつくり、そこに糖分を足して密閉容器に入れ再発酵で生まれた泡を閉じ込める、というやり方で生産されます。しかし、アスティとモスカート・ダスティは一次醗酵で発生する泡を閉じ込めるという点で、一般的なスパークリングワインとは製法が異なります。

  スタンレスタンクの発酵槽で一次発酵開始しますが、その際バルブを開け発生する炭酸ガスを排出させます。一定の発酵が進んだ段階で最適なタイミングでバルブを閉じ排出を止めます。バルブを閉じますので、発酵により発生するCo2はワインに溶け込みます。そのタイミングは最終的なワインのガス圧と残したい糖分を計算して決めます。必要なガス圧まで上がったら一気にワインを冷やし込んで発酵を停め、フィルターにかけて酵母を取り除いてそれ以上発酵が進まない状態にして瓶詰するというのが製法です。
 このように般的なスパークリングワインのようにドサージュで甘味を加えるのではなく、原材料のぶどうの糖分を生かした製法です。温度コントロールされた密閉式のタンク内での製造ですので、果汁の酸化を押さえて、香りや果実味を最大限に残す製法です。
 なお、アスティ・スプマンテの場合はガス圧を高めるため、タンクにシロップを加え、アルコール度数やガス圧が高まるまで発酵を行うことがあります。
また、瓶内二次発酵(メトド・トラディツィオナーレ)で造る生産者は少数派だと思われますがいます。伝統的製法のものはまた少し異なる個性のアスティが愉しめます。

asti カネッリの丘

アスティの規定

 アスティ・スプマンテ、モスカート・ダスティは、モスカート種の独特なアロマや、爽やかさ、フレッシュさを生かすために発酵の程度、温度管理・ガス圧、出荷までの期間に次のような定めがあります。


・発酵の程度
 アスティ・スプマンテ、モスカート・ダスティは共に規定アルコール分の3分の1が未発酵でなければならない。

・温度管理・ガス圧
 タンク内のブドウジュースは零下1度程度に冷却保存され、アルコールが一定程度(例えば5%程度)になったらタンクを密閉し、炭酸ガスを確保する。

・発酵から出荷
他にも発酵から出荷までは30日以内という規定。通常のワインに比べるとかなり早い出荷です。

 このようにアスティは熟成を楽しむシャンパーニュやフランチャコルタとは方向が全く違い、フレッシュさ、フルーティさを楽しむためのスパークリングワインです。

Asti

主な生産者

・ガンチア社
 1850年、北イタリアのピエモンテ州カネリにカルロ・ガンチアという人物がワイナリーを設立。その後、フランスのシャンパーニュ地方に2年間留学し、帰国したガンチアは、1865年、アスティ地方のモスカート種から、「モスカート・シャンパーニュ」と呼ばれるイタリア初のスパークリングワインを製造し販売を開始しました。
 やがてこの酒は「アスティ・スプマンテ」と呼ばれるようになり、そのふくよかなマスカットの香りと甘く爽やかな口当たりで多くの人々から人気を集めました。
 またガンチア社は、イタリア王室御用達ワイナリーとしても有名。イタリア建国の父とされる初代国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世の出自であるサルデーニャ王国の本拠は、サルデーニャ島ではなく大陸側のピエモンテでした。ガンチア社は1870年に国王から勅許状を受け取り、イタリア王室御用達となりました。

・トスティ(Tosti)
 1820年に設立されたトスティ社は、アスティDOCGの中心地カネッリに位置し、ぶどう畑が広がる丘陵に近代的なワイナリーを所有しています。ボスカ家が所有しており現在は7代目。モンフェッラートの土地に由来するワインの香り・個性を損なうことなく、大量生産を推し進めています。

「Gancia Asti」と「Tosti Asti」

・チェレット(Caretto)
 「バローロ」「バルバレスコ」。その銘醸地最高のつくり手として名声を博しているチェレット社。1939年に、リッカルド・チェレット氏がピエモンテ州アルバに創設しました。


・コントラット(Contratto)
 コントラット社は、ピエモンテ州カネッリにある創業1867年の老舗ワイナリーです。イタリアで初めてメトド クラシコ製法ヴィンテージスプマンテのメーカーです。

・ラ・スピネッタ(La Spinetta)
 1977年、カスタニョーレ ランツェに創業。ピエモンテの土着品種のみにこだわったワイン造りを続け、クリュの特徴を最大限に表現する造り手としてバルバレスコのトップ生産者の地位を確立。2007年にスプマンテ造りに携わるようになり、2011年には瓶内二次発酵のワイン造りにも取り組むようになりました。

・モランド(Morando)
 1880年創立、アスティ県コスティリオーレ・ダスティに拠点を構えるモランド社。創設当時よりアスティ・スプマンテを作り続け、100年以上の歴史を持った老舗。日本では1998年から発売されています。

テヌータ カレッタ(Tenuta Carretta)
 1467年に設立されたピエモンテ最古のワイナリーです。バローロ地区の中心部にあるバローロ村で最の注目を集めるクリュ「バローロ カンヌビ」に畑を所有しているほか、ランゲ、ロエロ地区とモンフェッラート地区で高品質なワインを製造してます。

・マルティーニ
 マルティーニは、1863年創業の老舗ブランド。イタリアのスプマンテ(を代表するワイナリーとして有名で、イタリア産スパークリングワインの販売量は世界第1位。日本でもトップシェアを誇ります。
マルティーニのスプマンテは、質の高さには定評があり、各国の王室や団体からの受賞歴も多数。

・サンテロ
  サンテロは、1958年創業のイタリアのワイナリー。ワインの品質について高い評価を得ており、世界一のイタリアンワインの展示会「ヴィニタリー(Vinitaly)」のアスティ部門でNo.1の評価を獲得しています。
サンテロのアスティの中でも、特に人気の1本が「天使のアスティ」。ラベルに描かれている天使は、サン・ピエトロ大聖堂にあるシスティーナ礼拝堂のフレスコ画をモチーフにしたものです。

「Martini Asti」と「Santero Asti」
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