フランチャコルタ風景

フランチャコルタ・・・スパークリングワイン・シリーズ⑥

 スプマンテ・シリーズの第2回目は、フランチャコルタ(Franciacorta)について詳しく解説します。 産地、ワインの特徴、歴史、使用ブドウ品種、種類、主な生産者について述べます。

フランチャコルタとは

 フランチャコルタは、北イタリアのロンバルディア州東部にあるフランチャコルタ地方で造られるイタリアを代表するスパークリングワインです。瓶内二次発酵方式で造られシャンパーニュと並び称されています。
 イタリアにも品質を保証する認定制度がありますが、1995年には4段階ある格付け統制保証原産地呼称のうち中の最高位D.O.C.G.に認定されています。
 フランチャコルタは、痩せた土地でありながらも、厳しい決まりを準拠して造られ「イタリアの奇跡」あるいは「フランチャコルタの奇跡」などと賞賛されています。
 生産量はシャンパーニュの5%ほどと少なく、しかもその9割ほどはイタリア本国で消費されています。しかし、日本はフランチャコルタが大好きで、日本へのフランチャコルタの輸出は全体の2割強を占め、輸出先のトップです。

ロンバルディア州フランチャコルタ

フランチャコルタの産地

 フランチャコルタが造られるのは、イタリア北部、ロンバルディア州にあるイゼオ湖の南に広がる丘陵地。ミラノから車で約1時間という立地で避暑地・リゾート地です。この地はアルプス山脈の麓で夏は日差しが暑く空気が乾燥し、冬は寒く雪の多い地域ですが、太陽の光を受けた豊かなブドウが育っていきます。
 フランチャコルタ地域は盆地ですが、土壌は石灰粘土質。氷河期に氷河が周囲の山の石や土を削り、押し流したため小石や砂が混じり合い、ミネラルなどの養分を含みながら水はけも良いという氷堆積土壌という土壌です。この土壌はスパークリングワインにとって最適な土壌です。
 ただ狭い範囲なので、ワイン造りに携わる生産者は約120ブドウ畑の栽培面積は2,900ha、年間生産量は2000万本ほどで、シャンパーニュ地方の約5000のメゾン、栽培面積34,000ha、年間生産量3億本近くに比べると比較にならないほど小規模です。
 なお、現在は、畑の約70%が有機栽培、もしくは有機栽培へ移行中だと言われています。

フランチャコルタの位置

味わい

 フランチャコルタ地域は、フランス・シャンパーニュ地域より南側に位置し温暖なため、ワインは糖度が十分で酸が穏やかで果実味豊かな味わいになります。
 澱抜き作業で目減りした分量を補うだけの白ワインを足すだけで、補糖のリキュール添加が必要ない、又は、最小限で済むこと多いです。このことからより自然な味わいとなっています。
 また、フランチャコルタのガス圧は約5~6気圧。長期熟成によるきめ細かな泡と相まって、柔らかな口当たりが心地よいです。

シャンパーニュとフランチャコルタとの比較

 シャンパーニュは涼しいシャンパーニュ地方で成熟しないブドウの酸味をもとにスパークリングワインを造り出した産地。採れたブドウをそのままワインにすると、酸のとがったスパークリングワインになりやすく、そのため、ワイン中のリンゴ酸を乳酸に変えるマロラクティック発酵や、仕上げに糖分を含ませたリキュールを少量添加(ドサージュ)するなどして、味を調整しています。
 これに対し、フランチャコルタは、温暖な地で成熟したブドウをフレッシュに仕上げた産地です。
ブドウがよく熟すことから糖度が十分で酸が穏やかなワインになり、あえて糖分を添加しなくても酸味が柔らかでかつ甘みを感じる、自然な味わいに仕上がります。きめ細かな泡立ちが心地よく、程よい酸と果実味、熟成による豊かな風味が特徴です。
 香りは、概してシャンパーニュがドサージュと瓶内熟成特有のかんばしい香りであるのに対し、フランチャコルタは、ブドウ本来の果実味や酸味、ミネラルの香りが感じられます。

フランチャコルタ風景

DOCG統制保証原産地呼称とは?・・・シャンパーニュを上回る厳しい基準

 フランチャコルタと名乗るには多くの規定をクリアしなければなりません。
収穫したブドウは圧搾した後、シャンパーニュと同じく瓶内二次発酵によって発泡性ワインになりますが、その際、使用されるブドウ品種や、熟成期間などDOCG統制保証原産地呼称の認定を満たす条件があります。

●使用品種

 フランチャコルタに使用が許されているブドウ品種は、多くが3種類。シャルドネ、ピノ・ビアンコ、ピノ・ネーロです。
 しかし、土着品種であるエルバマットという白ブドウ品種も可能です。それぞれの品種がフランチャコルタにとってどのような存在で、どのような風味をもたらしているのかを述べます。

1.シャルドネ
 シャルドネは総面積の約80%に相当する2,000haを占めています。 このブドウ品種から作られたワインは、優れた質感、豊潤で香り高く複雑・フルーティーでフローラルなる香り、心地良い酸味が特徴です。


2.ピノ・ビアンコ
 ピノ・ビアンコはフランチャコルタで三番目に多く栽培されている品種です。総面積の約5%を占めています。最大50%の比率でブレンドされ使用することができます。
ワインはしっかりとしたボディーで、エレガント、しっかりとした酸味が鮮やかで、焼きたてパンの皮を思わせる香りがします。香りが開くにつれ、アーモンドっぽい香りが際立ちようになります。


3.ピノ・ネーロ(ピノ・ノアール)
 二番目に多く栽培され総面積の約15%を占めています。主にフランチャコルタのロゼ、ブラン・ド・ノワール、ミッレジマートとリセルヴァに使われ、ストラクチャー(骨格)がしっかりした寿命の長いワインになります。また、ピノ・ネーロはフランチャコルタ・ロゼにとって欠かせない品種で、最低35%以上の使用比率が義務付けられています。


4.エルバマット
 フランチャコルタ地域があるブレーシャ県の白ブドウの土着品種であり、長年忘れられていた品種ですが、16世紀の記録には存在していたブドウ品種です。シャルドネやピノ品種に比べ、熟成期間が長く、収穫が約1か月遅くなります。
 しっかりした酸味やフレッシュさを備えますが、これまでの各フランチャコルタのベースワインの味わいを損ねることなく、綺麗に調和することができ、サテン以外のカテゴリに最大10%までの使用が許されています。
 現在、幾つかの生産者だけが栽培していますが、加えるか否かはカンティーナ(ワイナリー)である作り手に委ねられています

エルバマット

熟成期間

 フランチャコルタには使用するブドウの品種熟成期間別に様々な種類があり、次のように分類されます。
いずれもシャンパーニュより厳しい基準ですからフランチャコルタは高い品質が保持されています。
主に熟成期間の違いによる分類をみてみます。

〇ノン・ヴィンテージ
 様々な収穫年のブドウをブレンド。法定熟成期間は18ヶ月の瓶内熟成。収穫期から数えて醸造と熟成期間は最低25カ月。酵母の香りやミネラル、爽やかな酸味の、洗練された上品さと調和の良さが特徴。

〇ミッレジマート(ヴィンテージ)
 作柄の品質が特に良く、ワインの価値が高まる単一収穫年のブドウのみ使用。熟成は収穫の時から37ヶ月を必要とします。法定熟成期間は30ヶ月の瓶内熟成。天候、品質を鮮やかに映し出す香りや味の個性があります。

〇ロゼ/ロザート
 ピノ・ネロを25%以上ブレンドしたロゼタイプ。法定熟成期間は24ヶ月の瓶内熟成。ピノ・ネーロの果皮から芳しいアロマと美しい色を抽出し、ボディーと独特の活力を与えます。

〇サテン
 白ブドウ(シャルドネ、ピノ・ビアンコ)のみを使用します。法定熟成期間は24ヶ月の瓶内熟成。厳選されたベースワインのブレンドと低めのガス圧、繊細な泡立ち、ほどよいミネラル感と酸味が滑らかで心地よい味わいです。

〇リゼルヴァ
 法定熟成期間は60ヶ月の瓶内熟成。極上品質のミッレジマートを用い、香りと味を最大限に際立たせるため、酵母の澱を入れたまま最低5年間熟成させる、芳醇なワインです

フランチャコルタ風景①

●甘辛度別の分類(6種類)

ドザージュ・ゼロ(1ℓ中3gまでの残糖量、ワインの自然な残留)一番ドライです。
・エクストラ・ブリュット(1ℓ中6gまでの残糖量)非常にドライです。
・ブリュット1ℓ中12g以下の残糖量)ドライ、しかしエクストラ・ブリュットよりも少し柔らか。最も汎用的なタイプです。
・エクストラ・ドライ(1ℓ中12〜17gの糖分)– 典型的なブリュットよりわずかに柔らか。
・セックまたはドライ(1ℓ中17〜32gの糖分) – レスドライで少し甘口。
・デミ-セック(1ℓ中33〜50gの糖分)甘口。

なお、主流はブリュットです。

料理とのマッチング

 口当たりがソフトで酸が穏やかなフランチャコルタは、寿司や天ぷらを含む繊細な和食ととても相性が良く、ピッタリと寄り添ってくれます。


和食と3つの同調
1.昆布等の出汁の旨みを引き立てる
ミネラル分が多く、心地よい酸と、豊かな果実味のフランチャコルタは、だし汁の旨味に同調します。
2.繊細な味を引き立てます
ドザージュ(補糖、リキュール添加)が少なさやきめ細かな泡が、和食の繊細な味を引き立て、ほのかな塩味、苦みが食欲を刺激します。
3.素材の良さを活かします
ぶどう由来の味が真骨頂のワインであり、素材の良さを活かす和食との組み合わせはマッチしています。

 なお、イタリア料理との相性は言うまでもなく、イタリアでは、食前酒としてだけでなく、前菜からメインまでフランチャコルタで愉しめます。

フランチャコルタの歴史と地名の由来

 フランチャコルタにおける歴史はグイド ベルルッキという貴族と醸造家フランコ ヅィリアーニ氏が仕込んだワイン約3,000本が始まりです。1961年のことです。その後11の生産者が、ぶどう畑の総面積29ヘクタールで、生産量を拡大させ、1967年にDOC、さらに1995年、DOCG統制保証原産地呼称の認定を受け、瓶内二次発酵方式のみで造られるイタリア・ワインとして初めての生産方式が認められました。

 また、フランチャコルタの地名は歴史的な由来によるものです。
かつてフランチャコルタは貧しい地でした。この地の土壌は先に述べた氷堆積土壌です。土や石が入り混じり水はけが良すぎるため、小麦がよく育ちませんでした。それで貧しかったのです。
11世紀頃からこの地にあったサン・ピエトロ・イン・ラモーザ修道院の修道僧たちが、免税を要望しこれが認められ免税地域となりました。イタリア語で「免税」を意味する「フランカ」「地域」を意味する「コルテ」が組み合わさってコルテ・フランカ。それが転じてフランチャコルタとなった、と言われています。
歴史的にはフランチャコルタの名が初めて記されたのは、1277年だそうです。

主な生産者

 ワイン造りに携わる生産者は100超にしか過ぎませんが、ミラノのオペラ座のオフィシャルサプライヤーでもあり、品質と知名度ともにトップクラスであるベラヴィスタ(Bellavista)をはじめとして以下の生産者があります。(アルファベット順)

・アンティカ・フラッタ Antica Fratta
・バローネ・ピッツィーニ Barone Pizzini
・ブレダソーレ Bredasole
・カ・デル・ボスコ Ca’del Bosco
・カモッシ Camossi
・コルテフジア Corte Fusia
・フラテッリ・ベルルッキ F.Berlucchi
・フェルゲッティーナ Ferghettina
・イル・モスネル Il Mosnel
・ラルベレータ ルレ・エ・シャトー L ́Albereta Relais & Chateaux
・ラ・トッレ LaTorre
・マイオリーニ Majolini
・モンテ・ロッサ Monte Rossa
・ロンコ・カリーノ Ronco Calino
・サン クリスト San Cristoforo
・ソリヴェ Solive

ベラビスタ
フランチャコルタ風景
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