スプマンテ・シリーズの第6回目は、ランブルスコ(Lambrusco)について詳しく解説します。
産地、使用ブドウ品種、DOC、味わい、製造方法、歴史、主な生産者などについて述べます。
ランブルスコとは
ランブルスコは、主にイタリアのエミリア・ロマーニャ州で造られる微発泡の赤ワインです。ランブルスコはFrizzante(微発泡)が主流ですが、Spumante(発泡)と記載のあるものは炭酸が強めになります。
また、ランブルスコのバリエーションはとても豊富で、赤(Rosso)の他に、白(Bianco)やロゼ(Rosato)、甘口から辛口までのものがあります。
苺やチェリーなど赤果実の香り、程良い甘みと渋み、酸味のバランスが取れた味わいで、アルコール度数は辛口が11%ほど、甘口ですと8%前後になります。
フルーティな味わいと低アルコール、手頃な価格も相まって、人気が高いワインです。
ランブルスコの産地
ランブルスコの生産地はイタリア最長のポー川流域の平原からアペニン山脈のすそ野まで広がり、エミリア・ロマーニャ州とロンバルディア州の州境にまたがっています。
生産エリアは大きく分けて、エミリア・ロマーニャ州のモデナとレッジアーノ、ロンバルディア州側のマントヴァーノの三つ。温暖な大陸性気候で、ほどよい降水量(年間700㎜程度)もあり、ブドウがよく育つエリアです。
ほとんどのランブルスコはラベルに「Lambrusco Modena」のように、この内のいずれかの産地を表示しています。
ぶどう「ランブルスコ」品種の種類
ランブルスコ種のブドウは細かい種類(亜種といいます)に分類でき、その数は100種類にものぼるといいます。ランブルスコ種は大量に実がなり収穫が多いというのが特徴です。その分ワインの製造量も多くなります。
この多くのラブラスコ品種の中で、高品質なラブラスコワインが造られるランブルスコ品種は次の三つです。
①ランブルスコ・ソルバーラ種
すべての粒を成熟させるのが難しく、収量が少ない品種です。未熟な果粒が含まれるためランブルスコの品種の中で酸味が最も強い品種です。淡い色、繊細でフレッシュな味わいのワインを造ります。栽培地区はモデナ北部、ポー川近辺のみです。
②ランブルスコ・グラスパロッサ種
ランブルスコ・グラスパロッサは丘の斜面で栽培されています。丘の斜面は粘土質の土壌で、果実に豊満な風味を与え、力強いタンニンでしっかりとした味わいのワインを造ります。秋になると葉っぱだけでなく房までもが赤く(ロッソ)なってしまうことからこの名がつきました。栽培地区はモデナ、レッジョ・エミリアのそれぞれ中心部と南部です。
③ランブルスコ・サラミーノ種
ランブルスコ・サラミーノ種はランブルスコで最大の栽培面積を誇り、ソルバーラ種とグラスパロッサ種の中間をとったような品種です。造られるワインはルビー色で、香りや味わいは、果実味、酸のバランスが良く、ほどよい重厚感です。ロゼに向いており、エレガントなロゼができます。ブドウの房の形が長く筒状をしていてサラミハムに似ていることが名前の由来です。栽培地区はレッジョ・エミリアとモデナの一部です。
その他に3種類も認められています。時折見かけますので紹介します。
④ランブルスコ・マラーニ
サラミーノよりも酸が強め。エレガントな品種だが、ソルバーラほど酸は感じられません。ロゼに向いており、エレガントなロゼができます。栽培地区はレッジョ・エミリア南部が主体です。
⑤ランブルスコ・マエストリ
ブドウ自体は甘い品種です。セッコ(辛口)を造るとレッジョ・エミリアやモデナで造られるセッコより甘味の強いランブスルコになります。栽培地区はレッジョ・エミリア西部、パルマが主体です。
⑥ランブルスコ・マントヴァーノ(ヴィアダネーゼ)
栽培地区はロンバルディア州(レッジョ・エミリアとマントヴァの間)です。酸味とタンニンが弱く、甘味や果実味が強いことから、フルーティでフレッシュなワインになります。少し青っぽい風味も感じられます。
ランブルスコのDOC
主要な3品種をメインにしての造られるランブルスコには、主に3つのDOCがあります。
ランブルスコワインを選ぶには、産地ごとに造られるブドウ品種の特徴と後述する甘辛度の見分け方を理解する必要があります。
①ランブルスコ・ディ・ソルバーラDOC
・・・渋みが少なく上品な味わいのワイン
ランブルスコ・ソルバーラ種を60%以上使用しています。ワインは淡い色調で、香りは赤スグリにバラやスミレの華やかでふくよかです。渋みとして感じられるタンニンが少なく、繊細でフレッシュな味わいです。ソルバーラ種はタンニンが少ないので、ほとんどのワインが辛口で上品な味わいに仕上げられます。
②ランブルスコ・グラスパロッサ・ディ・カステルヴェトロDOC
・・・渋みが際立つ濃厚な味わいのワイン
ランブルスコ・グラスパロッサ種を85%以上使用して造られます。ワインは、よく熟した黒系果実の香りに、力強いタンニンと酸味がありフルボディ。濃厚で飲みごたえのあるものになります。
また、強い渋味とバランスを取るために、残糖分がやや多めに仕上げられることが多くあります。
なお、ランブルスコ・グラスパロッサ種を使った広域のDOCに冠するものもあります。モデナの「ランブルスコ・ディ・モデナ DOC」、レッジョ・エミリアの「レッジャーノ・ランブルスコ DOC」、マントヴァの「ランブルスコ・マントヴァーノ DOC」です。
モデナは適度なボリュームとバランスの良い味わい、レッジャーノは香りに複雑性がありややスレンダー、マントヴァ―ノはやわらかく果実的な味わいともいわれます。
③ランブルスコ・サラミーノ・ディ・サンタ・クローチェDOC
・・・ほどよい重みと芳醇な香りが楽しめるワイン
ランブルスコ・サラミーノ種を85%以上使用して造られます。ワインは、しっかりした色、香りはほのかにスミレやバラのような芳醇な香り、タンニンはグラスパロッサほど強くなく、ほどよい重厚感です。
その他、4つのDOCがあります。
④モデナDOC
モデナ全域を含むエリア。サラミーノ、ソルバーラ、グラスパロッサ種すべての品種を使うことができます。レッジョ・エミリア地区のレッジアーノDOCと並ぶランブルスコの主要産地です。
⑤レッジアーノDOC
レッジョ・エミリアの全域を含むエリア。モデナ地区のモデナDOCと並ぶランブルスコの主要産地です。サラミーノ、グラスパロッサ、マラーニ、アンチェロッタの品種を使うことができます。
⑥コッリ・ディ・スカンディアーノ・エ・ディ・カノッサ DOC
レッジョ・エミリアの中心に位置するエリアです。
⑦マントヴァーノDOC
マントヴァのエリアで栽培されているランブルスコ・マントヴァーノのみが使用できます。
甘辛度
ランブルスコの甘辛度は次の4つです。
ランブルスコの味わいは甘口から辛口まで幅広く、ラベルにその残糖度を表示しています。
下図のように表か裏ラベルに書かれています。
・Secco(セッコ):~15g/L
・Semisecco(セミセッコ):~30g/L
・Amabile(アマービレ):~50g/L
・Dolce(ドルチェ):50g~/L
残糖分が少ないほうからSecco(辛口)、Semi-Secco(やや辛口)、Amabile(やや甘口)、Dolce(甘口)です。
ランブルスコの製法
ランブルスコの製法はシャルマ方式です。シャルマ方式で造られたスプマンテは、ブドウ品種のアロマを際立たせたいスパークリングワインになります。
赤のランブルスコの製造の具体的な製造法は次のように行います。
果皮をジュースに数日漬け込み、好みの色調を出していきます。その後、このベースワインを大きな密閉式のステンレスタンクに移し、酵母と糖分を入れ、2次発酵へと進みます。アルコール発酵で酵母がアルコールを生み出すときに発生する炭酸ガスをワインに溶け込ませます。2次発酵の期間は、1~2.5気圧の微発泡(フリッツァンテ)の場合は2週間ほど、3気圧以上の発泡(スプマンテ)の場合は4週間ほどです。
また、甘口にする場合は途中で発酵を止め残糖を残すか、最後に甘み成分を添加します。発酵終了後は果実の香りを残すため、澱と接触させず瓶詰めします。 瓶内二次発酵方式のようにの長期間熟成させず、動瓶や澱抜きの作業もな短期間で市場に投入できるので安価な価格で売り出せます。
ランブルスコの歴史
ランブルスコは1970~80年代にフルーティーで飲みやすい「大人のコーラ」風な味わいで、アメリカを中心に大変飲まれました。ランブルスコには甘口と辛口がありますが、この時に流行したのは安価な甘口のスタイル。ランブルスコ人気に乗じて低品質で甘いだけのワインも出回り、ランブルスコのイメージ低下にもつながった歴史があります。
今でもリーズナブルで飲みやすいワインが多いランブルスコ。一方、昔ながらの伝統製法で造った辛口ランブルスコや、単一畑のブドウを使いヴィンテージを冠した複雑なスタイルもあり、ランブルスコにも変化が起こっています。
料理とのマッチング
エミリア・ロマーニャ州は、美食の都です。パルマのプロシュット・ディ・パルマ(パルマハム)、パルミジャーノ・レッジャーノ、ボロネーゼ(ミートソース)、モデナ産バルサミコなどが名産品です。これらとランブルスコは切っても切り離せません。
・辛口のランブルスコは、微炭酸の泡と、軽やかな渋み、フレッシュな果実味から、濃い味付けの料理に合います。ボロネーゼやバルサミコ酢、濃厚なチーズを使ったピザやパスタなど。ハムやチーズ、トマトソースのパスタやピザ、ラザニアなどイタリアン全般にもよく合います。
・また、黒酢の酢豚などの中華やスパイスのきいたエスニック料理を補完してくれます。
・中甘口~甘口のものは、低アルコールかつ爽やかな泡の甘さから、苺やチェリーを使ったデザートや食後のチーズなどにおつまみ系によく合います。
主な生産者
・カビッキオーリ(Cavicchioli)
1928年設立のワイナリー。イタリア国内で最高の人気を誇っています。ソルバーラ種を中心に栽培しています。高いクォリティ、安定供給、大手ながらも情熱を持った信頼できる生産者で、『ガンベロロッソ』では「ランブルスコ生産者の一つの指針となるワイナリー」と高く評価されています。
・キアルリ(Chiarli)
1860年創業の、エミリア地方でもっとも古いワイナリーです。年間2400万本も生産するランブルスコ最大級のワイナリーで瓶内二次発酵の「フォンダトーレ」も造ります。
・ドネリ(Donelli)
1915年創業。ドネリ社はF1フェラーリのスポンサーなど、国際的なコラボレーションにも積極的なワイナリーです。
・メディチ エルメーテ (Medici Ermete)
フィレンツェの正統なメディチ家の流れを汲んだ一族が19世紀の末、レッジャーノ地区でランブルスコを造りはじめたのが創業のきっかけです。2010年にエミリア・ロマーニャ州最優秀ワイナリー(ヴィニタリー2010)を獲得するなどランブルスコを代表する生産者です。
さまざまな地域からのブドウをブレンド&ノンヴィンテージ(ヴィンテージ表記がないもの)が多いランブルスコに、「単一畑」と「ヴィンテージ」の概念を始めて取り入れ、フラッグシップワインには、「コンチェルト」があります。
・フランチェスコ・ベッレイ
1920 年にモデナ県のボンポルトに Francesco Bellei によって設立されました。企業理念は常に瓶内自然発酵という「伝統的手法」によるワイン造りの伝統。この伝統製法で造るランブルスコ・ソルバーラなどが有名です。