アイキャッチ⑤メルロー

第5回 メルローのワイン産地(米国・スペイン・チリ)・・・「メルローを良く知る」シリーズ⑤

「メルローを良く知る」シリーズ⑤

 

 第5回目のシリーズでは、世界でフランス・イタリアの次に多く造られていると米国・スペイン・チリメルローを具体的に紐解きます。主なブドウ産地の動向や特徴、地域ごとワインの特徴を解説します。

シリーズ① ぶどう「メルロー」の素顔
 〇「名脇役」メルロー・・イメージ
 〇メルローが名脇役である理由・・・ブドウの実像
 〇健康的にすくすく育つ青年
 〇多くの人に愛される中庸の好青年
 〇演じれば協調性のある名脇役、時に主役もこなせる
 メルロー(Merlot)・・・ワイン検定(ブロンズ)記載内容

シリーズ② 世界のメルローの起源・親族
 〇起源は鳥の「ツグミ」
 〇義兄弟の多いメルロー・・・親族関係
 〇黒ブドウの中の中庸の品種
 〇世界で造られるメルロー・・・栽培面積

シリーズ③ ワインの風味と世界の産地
 〇最大の長所=口当たりの良さ
  ・・・一般的な風味
 ・ワインの色、香り、味わい
 〇気候の違いによる風味の変化
 〇ニューワールドの風味
 〇熟成による風味の変化
 〇世界の主なワイン産地

シリーズ④ メルローのワイン産地(フランス・イタリア)
 〇フランス
 〇イタリア

シリーズ⑤ メルローのワイン産地(米国・スペイン・チリ)
 〇米国
 〇スペイン
 〇チリ

シリーズ⑥ メルローのワイン産地(ニュージーランド・日本)と料理とのマッチング
 〇ニュージーランド
 〇日本
 〇料理とのマッチング

アメリカ

 米国におけるメルローの栽培面積は、2.1万ha(2016年)でイタリアの2.4万haに次いで多く、3番目に多い国です。地域としては主にカリフォルニア州ワシントン州で栽培されています。
 メルロ―の栽培は、カリフォルニア州では1.5万ha(2019年)とアメリカの中では最大です。これはカベルネ・ソーヴィニョン(3.8万ha)、シャルドネ(3.7万ha)には及びませんが、ピノ・ノワール(1.9万ha)、ジンファンデル(1.6万ha)とほぼ並ぶ規模です。

 また、ワシントン州ではカベルネ・ソーヴィニョン、シャルドネに次いで多く生産されています。これらの地域では、先に述べたように、「カベルネ・ソーヴィニョンある所にメルローあり」の言を実行している感があります。

カリフォルニア メルロー・栽培面積・2019年

 米国におけるメルローの歴史は、「流行り」の時期から「苦難」の時期を経て現在は「凪」の時期のように推移しています。

 フレンチパラドックス(※)による赤ワインブームの影響で1990年代~2000年初頭にカリフォルニアでも栽培面積が一気に増えました。特に温暖なカリフォルニアのメルローは極めて飲みやすく消費者の人気を集めました。
 しかし、2004年にリリースされた映画「SIDEWAYS」が、メルローの流行に水を差しました。この映画のなかで主人公・マイルズが「俺はクソメルローを飲まない!」とメルローをこき下ろし、ピノノワールを持ち上げました。映画はアカデミー賞とゴールデングローブ賞を受賞しました。その影響は大きく、主人公が愛したブドウ品種であるピノ・ノワールが支持され、大きく売上を伸ばす一方で、メルローは売上を落としました。

アメリカのメルローの主な産地

 そして、近年では栽培面積も2010年2.3万ha、2016年2.1haと横ばい状態です。

 しかし、現在、メルローを主軸にした高品質なワインやカベルネ・ソーヴィニョンとブレンドして製造している生産者がカリフォルニア州のナパ・ヴァレーやワシントン州のコロンビア・ヴァレーにいます。

 例えば、ナパ・ヴァレーにおけるメルローで最重要な生産者はセント・ヘレナA.V.A.にあるダックホーンです。「メルローは補助品種にすぎない、とは間違いだ。素晴らしいメルローのワインも作れるんだ!」と証明したのがダックホーンです。2009年に行われた当時の大統領、オバマ氏の大統領就任式にてダックホーンのワインが提供されました。

中でもトップキュベは「スリーパームスヴィンヤード」

ナパ・ヴァレー・ダックホーン

(※フレンチ・パラドックス
 フランスでは近隣諸国と同じに脂肪摂取量が多いというのに心筋梗塞による死亡者が一番少ないというのです。この因果関係が一見逆にみえる現象はかなり以前からフレンチ・パラドックス(逆説)と呼ばれていました。
動脈硬化を来すメカニズムを、赤ワインに含まれるポリフェノール化合物が抑制していることがわかっっています。)

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スペイン

 ブドウの栽培面積が世界1位を誇るスペインでは、スペイン固有のブドウ品種を活かしたワイン造りが盛んです。
グラフのように白ブドウのアイレンや黒ブドウのテンプラニーリョの栽培面積が圧倒的に多く、カベルネ・ソーヴィニョンでさえもテンプラニーリョの1/10に留まっています。
メルローの栽培面積は1.2万haと相対的に小さく13位に留まっています。

スペインのぶどう栽培面積・メルロー(2019年)

 このため、スペイン国内において、メルローを主体にワイン造りを行っている地域は極めて限定的です。
栽培地域は、D.O.(原産地呼称制度)の認定を受けているカスティーリャ・イ・レオン州のD.O.シガレスD.O.リベラ・デル・ドゥエロ、カスティーリャ=ラ・マンチャ州のD.O.ラ・マンチャや・D.O.メントリダなどで栽培されています。


 基本的にブレンドして使用されていて、ワイナリーによって味わいはさまざま。近年メルロやカベルネ・ソーヴィニヨンなどの国際品種も注目されています。カタルーニャ州のペネデスではソフトでエレバントな複雑味のある赤ワインが造られています。

スペイン地図(メルロー)
スペイン地図(メルロー)
スペイン・ラ・マンチャ
スペイン・ラ・マンチャ

チリ CHILE

 チリにおけるメルローの栽培は、カベルネ・ソーヴィニョン(4.1万ha)、ソービニヨンブラン(1.5万ha)に次いで3番目に多い1.2万haです。これは全ブドウの13.7万haの9%にあたります。シャルドネ(1.1万ha)やカルメネール(1.0万ha)と同程度に栽培されています。

チリのメルロー・栽培面積(2018年)

 主な栽培地域は、D.O.セントラル・ヴァレーです。D.O.セントラル・ヴァレーの中でも、D.O.マウレ・バレー、D.O.クリコ・ヴァレー、D.O.ラペル・ヴァレー(D.O.コルチャグア・ヴァレー)などがあります。

 これらの地区ではメルローは、カベルネ・ソーヴィニョンの次に多く栽培されていて、カベルネ・ソーヴィニョンにブレンドされるほか、メルロー100%のワインとして造られています。単一ワインの風味は、他国のメルローより濃厚な味わい、まろやかな口当たりとなっています。

チリのメルローの主な産地

 ただ現在のチリのメルローの歴史を辿ると、独特なものがあります。

 メルローが現在のような栽培と醸造方法でワイン製造を行えるようになったのは、30年の歴史しかありません。というのはメルロー自体はカベルネ・ソーヴィニョンやカルメネール、カベルネフランなどのボルドー品種として、19世紀半ばにはチリに苗木が持ち込まれていました。しかし、問題はカルメネールでした。カルメネールをカルメネールと認識せず、メルローだと誤認したまま1991年までいました。
 メルローには晩熟のメルロー早熟のメルローがあると思われていて、2種類が混植されていたのです。しかし、1994年に晩熟のメルローはカルメネールであることが、フランス人ブドウ学者によって解明されました。

 これ以降、メルローとカルメネールの植え分けが行われました。そして、メルローの風味についてもこれを機に変化が起こります。

 混植していた時代には二種類の「メルロ」を同時に収穫することで、メルローの風味は、熟した果実にパブリカのニュアンスが加わった、独特の風味でした。しかし、混植解消後のメルローの風味は、ジャムのような風味をもつワインになりがちです。というのは、メルローはもともと早熟であり、豊富な日差しを浴びて熟度が高いからです。

 当然、完熟したブルーベリーのような黒系果実、カカオやミントなどの香りが豊かで、ピュアな果実味滑らかなタンニンのワインになります。

 そして、今では、このようなジャミーなワイン一辺倒でなく、より早熟なメルローに適応したワイン造りのための栽培適地の研究が進み、栽培地は、セントラヴァレーから北部のリマリ・ヴァレーエレキ・ヴァレー、あるいは、カサブランカ・ヴァレーなど冷涼地への栽培移行が進みつつあります。

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