「ピノ・ノワールを良く知る」シリーズ①
このシリーズでは、ピノ・ノワールについて深堀りします。高貴なワインと言われ人気がありますが、世界各地での違いがよくわかるようにピノ・ノワールワインについて記載します。
どんなブドウか、どんなワインを造り出すか、世界各地で造られるピノ・ノワールワインの生産地ごとの違い、料理とのマッチングなどを6回にわたって紐解きます。
シリーズ① 「ぶどう「ピノ・ノワール」の素顔」
〇ブドウなのに「黒い松ぼっくり」・・・名前の由来
〇寒冷地で育つ小顔の貴公子・・・ブドウの特徴
〇育て方が難しい貴公子・・・ブドウの特徴
〇人気の貴公子にも辛い事情がある
・・・大量には栽培されていない
〇気難しいピノ・ノワール
・・・大量生産に向かない理由
〇多くのブドウ品種のルーツの一つ
・・・ピノ・ノワールの家系図
〇別名の宝庫ピノ・ノワール・・・シノニム
〇ワインは繊細で高貴
・・・ピノ・ノワールは上品なワインを造る
〇ワイン検定(ブロンズ)記載内容
シリーズ③ 「ピノ・ノワールの世界の主なワイン産地とフランス」
〇世界の主なワイン産地
〇【フランス】ブルゴーニュ地方
〇シャンパーニュ地方
〇アルザス地方・ロワール地方
〇【米国】カリフォルニア、オレゴン
〇【ドイツ】バーデン、ファルツ
シリーズ⑤ 「ピノ・ノワールの主要産地(ニュージーランド・イタリア)」
〇【ニュージーランド】セントラル・オタゴ、マーチンボロ他
〇【イタリア】トレンティーノ・アルト・アディジェ他
シリーズ⑥ 「ピノ・ノワールの主要産地(オーストラリア・チリ・日本)」
〇【オーストラリア】ヤラ・ヴァレー他
〇【チリ】サン・アントニオ・ヴァレー他
〇【日本】北海道他
〇料理とのマッチング
ブドウなのに「黒い松ぼっくり」と呼ばれる(名前の由来)
ピノ・ノワールの果房はブルーベリーほどの大きさしかない小さなものです。その果房が密度高く集まっていて、見た目が円錐に近い円筒形の「松ぼっくり(Pinot)」のようにも見えます。そして、色が黒(noir)です。
このため、黒い松ぼっくり(Pinot noir)の名が14世紀中頃には付けられました。
しかし、かつては、フランスで「モリヨン (Morillon) 」「ノワリアン (Noirien)」「オーヴェルナ (Auvernat)」などと呼ばれていたようです。
大変古くからある品種ですが、その起源は明らかになっていません。著しく突然変異を起こしやすく、大変多くのクローン(遺伝的に同じ性質を持つブドウ)があります。フランスだけでも50種類以上のクローンが正式に認定されているほどです。
このため、後ほど記載するように、多くのぶどうが変異と先祖返りをしやすい「近親種」だったり、遡るとピノ・ノワールに繋がる元祖的な品種です。
寒冷地で育つ小顔の貴公子・・・ブドウの特徴
ブドウとしての容姿は、華奢で小柄な体形=「果皮が薄く、小ぶりの果実」です。
ワイン用ブドウは一般的に、生食用のブドウと比べると粒が小さいものです。粒が小さい方が果肉・果汁に対して果皮の割合が高く、色が濃く、風味高いワインになります。また、粒の大きさが同じでもが果皮が厚いほど色の濃さや風味が高くなる傾向になります。
その点、ピノ・ノワールは小粒ですが果皮が薄いので、風味はありますが造られるワインの色合いは他の黒ブドウよりも淡いものになります。
なお、ブドウの果皮としての色は青みを帯びた黒色〜紫色をしています。
また、ブドウとしての気温の好みは、暑さより冷涼さに強い=冷涼な気候を好みます。
オーストラリアのアデレード大学の研究によれば、ピノ・ノワールの栽培地域は多くのブドウの中でも大変冷涼な地域で生育しやすいことがわかっています。
表はブドウ品種が生育するに適する温度帯を示したものです。ブドウがしっかりと成熟し高品質なワインになる「好適な温度帯」です。
上から5番目のピノ・ノワールの好適な温度帯は、4月から10月(北半球)の平均気温で14~16℃です。この温度帯は白ブドウのピノ・グリやゲヴルツトラミネール、リースリング、シャルドネと同程度であり、どのブドウ品種より冷涼な地域が栽培に適合しています。
赤ワインに造られる他の黒ぶどうと比較しても、冷涼な地域な地域を好みます。多くの黒ブドウ品種の好適な温度帯が16~21℃ですから、いかにピノ・ノワールが冷涼な地域に適しているかがわかります。
また、シャルドネとの比較をしてみると、シャルドネの好適な温度帯が14~18℃と4℃の幅があるのに対して、ピノ・ノワールは14~16℃と2℃ですので、いかに狭い温度帯で育つのかがわかります。
さらに、冷涼な気候を好むリースリングと比べても、リースリングの好適な温度帯が13~17℃と4℃の幅があるのに対し、ピノ・ノワールは2℃と狭く、同じ冷涼な気候を好む品種であっても好適な温度帯が狭いことがわかります。
育て方が難しい貴公子・・・ブドウの特徴
ピノ・ノワールは、成熟までの歩みがナイーブ(=気候条件、栽培方法、土壌に敏感)なため栽培が難しいブドウ品種です。
造られる高品質なワインは高貴な貴公子のようですが、立派な大人に育てる(=ワイン)に醸造させるには苦労を伴う品種です。
ピノ・ノワールの栽培が難しい理由は具体的には次のような事情です。
①気候に敏感
先に述べたように、ピノ・ノワールは好適温度帯が狭いので、栽培に適した土地は緯度や高度、地形にもよりますが限られます。
リースリングやシャルドネと比較しても栽培地域は広くありません。
加えて、ピノ・ノワールは発蕾時期が早いため、年によっては春の霜害を受けたり、結実不良を起こしやすいことがあります。
また、果皮が薄いため日光や熱で傷みやすいうえに、果房が高密度で密着になりやすいので灰色かび病や糸状菌の病気にかかりやすい品種です。
このため気候に注意が欠かせません。栽培するうえで細やかな管理が必要です。
②剪定など栽培に手間がかかる
質の高いワインの製造のためには一つの樹の房の数を制限するように管理することがあります。
生産者は収量を低く抑えることになりますが、これは適切な剪定により達成します。それだけ栽培に手間がかかるということです。
③土壌を選ぶ
土壌のタイプについても、ピノ・ノワールは石灰岩質で鉄分を含み水はけがよい土壌を好みます。
そのような土壌で育ったピノ・ノワールこそが上質なワインとなるため、土壌はピノ・ノワールにとって重要な栽培条件です。
人気の貴公子にも辛い事情がある:・・・大量には栽培されていない
ピノ・ノワールは知名度が高く大変人気もありますから、近年世界中で栽培が盛んになってきています。
世界での栽培面積は10番目ですが、2000年から2016年の推移を見てみると1.5倍(6.8万ha⇒10.5万ha)と伸ばしています。
しかし、この栽培面積は決して大きいものではありません。全ブドウの中で見てみるとわずか2.3%であり、最大のカベルネ・ソーヴィニョン(31.1万ha)の1/3にしかすぎません。
意外にも人気の割には大量に栽培されてはいないのです。いや大量に栽培されていないというより大量の栽培には向いておらず栽培できないといった方が適切かもしれません。
気難しいピノ・ノワール・・・大量生産に向かない理由
高品質なピノ・ノワールワインを大量生産できない理由は、上記のように気候条件、栽培方法、土壌に敏感で栽培が難しいことに加えて、次のような理由があります。
①早熟な品種のため・・・栽培が難しい
ピノ・ノワールは早熟な品種で、結実してから着色し成熟するまでが他のブドウより短期間です。
成熟すれば果肉の糖度は上がります。特に温暖な環境では糖度は上がり赤実の甘味はつきます。しかし、短期間の成熟のため間引きしにくい栽培環境では、風味が思ったように良くつきません。
このことを避けるため剪定など栽培上の管理が求められる品種なのです。
ちなみに、ピノ・ノワールは冷涼で乾燥した気候の地域でゆっくりと熟成されるほど高品質なワインになります。
②土壌の性質を強く反映する品種のため・・・場所を選ぶ
ピノ・ノワールで造られるワインは栽培される土地の土壌の性質を強く反映する味わいになります。
先に述べたように、水はけがよく石灰質の割合が多い、粘土・石灰質の土壌が栽培に適していますので、高品質なワインにためには場所を選ぶ必要があります。
加えて、広い栽培地では土壌ごとに味わいにバラツキが生じます。このため、バラツキのない品質のワインを造ろうとすると比較的均一な土壌の小規模な栽培地になります。
このようにピノ・ノワールで高品質なワインを造ろうとしても大量生産には向かないということになります。