ロシアンヴァレーとフラワーズのピノ・ノアールワイン

ピノ・ノワールの主要産地(米国・ドイツ)・・・「ピノ・ノワールを良く知る」シリーズ④

ピノ・ノワールを良く知る」シリーズ

 第4回目のシリーズでは、世界でフランスの次に多く造られている米国とドイツのピノ・ノワールを具体的に紐解きます。米国、ドイツの主なブドウ産地の動向や特徴、地域ごとワインの製造上の特徴や色合い、香り、風味を解説します。

シリーズ① 「ぶどう「ピノ・ノワール」の素顔

〇ブドウなのに「黒い松ぼっくり」・・・名前の由来
〇寒冷地で育つ小顔の貴公子・・・ブドウの特徴
〇育て方が難しい貴公子・・・ブドウの特徴
〇人気の貴公子にも辛い事情がある
    ・・・大量には栽培されていない
〇気難しいピノ・ノワール
    ・・・大量生産に向かない理由

シリーズ② 「ピノ・ノワーのルーツとワインの特徴

〇多くのブドウ品種のルーツの一つ
    ・・・ピノ・ノワールの家系図
〇別名の宝庫ピノ・ノワール・・・シノニム
〇ワインは繊細で高貴
  ・・・ピノ・ノワールは上品なワインを造る
〇ワイン検定(ブロンズ)記載内容

シリーズ③ 「ピノ・ノワールの世界の主なワイン産地とフランス

〇世界の主なワイン産地
〇【フランス】ブルゴーニュ地方
〇シャンパーニュ地方
〇アルザス地方・ロワール地方

シリーズ④ 「ピノ・ノワールの主要産地(米国・ドイツ)

〇【米国】カリフォルニア、オレゴン
〇【ドイツ】バーデン、ファルツ

シリーズ⑤ 「ピノ・ノワールの主要産地(ニュージーランド・イタリア)

〇【ニュージーランド】セントラル・オタゴ、マーチンボロ他
〇【イタリア】トレンティーノ・アルト・アディジェ他

シリーズ⑥ 「ピノ・ノワールの主要産地(オーストラリア・チリ・日本)

〇【オーストラリア】ヤラ・ヴァレー他
〇【チリ】サン・アントニオ・ヴァレー他
〇【日本】北海道他
〇料理とのマッチング

米国

 米国におけるピノ・ノワールの栽培面積は、2.3万ha(2016年)でフランスの3.1万haに次ぎ、全世界の約2割を占めるほどになっています。米国には様々なAVAがあります。
 AVA(American Viticultural Area)とは米国政府認定ブドウ栽培地域のことで、一定の地理的・気候的なブドウ栽培条件をもつとみなされるエリアの境界線を規定したものです。
平たく言えば、ブドウが育つ条件が同じ地域を一括りにした地域を指して言います。ヨーロッパのAOCなど原産地保護呼称が、ブドウ品種、栽培方法、製造方法などを規定するのに対しAVAはそこまでは規定していません。 評価の高いピノ・ノワールワインは、米国の中でもカリフォルニア州オレゴン州のAVAで造られています。

アメリカ(カリフォルニア州とオレゴン州)

カリフォルニア州

 カリフォルニア州は米国の中でピノ・ノワールの最大の産地で、最大の19,400ha(2019年)で栽培されています。カリフォルニア州における全ブドウ栽培は19.3万haで、カベルネ・ソーヴィニョン、シャルドネの3.8万haに次いで多く栽培されています。
カリフォルニア州の中でも、

・ノース・コーストのロシアン・リヴァー・ヴァレーソノマ・コーストロス・カーネロスアンダーソン・ヴァレー

・セントラル・コーストのサンタ・クルーズマウンテンズサンタ・ルシア・ハイランズサンタ・マリア・ヴァレー

など多くのAVAで栽培され、ピノ・ノワールワインが造られています。

〇風味の特徴

 ヨーロッパの生産地とくらべると温暖な気候がもたらす果実味や熟成を経たリッチな味わいが、一般的にはカリフォルニアのピノ・ノワールワインの特徴です。赤いベリーの果実味が豊かで、酸味はやや穏やか、渋みほどほどにも感じられるタイプです。

 しかし、寒流やサン・パブロ湾(サン・フランシスコ)の霧、複雑で入り組んだ地形の影響を受けた冷涼な地域では、低アルコール、エレガントで繊細なスタイルのピノ・ノワールも数多く造られています。
 また、近年では土地固有の風土を活かしたワイン造りを進めるニュー・カリフォルニアと言われるスタイルの生産者の造るピノ・ノワールも人気を集めています。

カリフォルニア(ピノ・ノワールの主要産地)

各々のAVA

ロシアン・リヴァー・ヴァレー(Russian River Valley/ソノマ郡/ノース・コースト
 サンフランシスコが面するサン・パブロ湾の北西に位置したこの地区は、西側の太平洋の寒流からの冷風が流れ込みます。このため、他の地区よりもブドウの生育期間が長く、良い酸が維持できることから品質の良いピノ・ノワールワインが数多く造られています。

ソノマ・コースト AVA(ソノマ郡/ノース・コースト)
 上記のロシアン・リヴァー・ヴァレーAVAを含む広域AVAです。ソノマ郡の最北、太平洋沿岸部に位置し、標高450m超える尾根にブドウ畑が点在しています。標高の高さから冷涼で昼夜の寒暖差が大きい。霧の影響を受けにくく日照量も多く、水はけがよいことから定評のあるピノ・ノワールワインが造られています。

ロシアンヴァレーとフラワーズのピノ・ノアールワイン

ロス・カーネロス(Carneros /ソノマ郡、ナパ郡・ナパバレーと共有)
 ナパバレーの最南端にあり、サン・パブロ湾に近接しています。常に冷涼な海風が吹き、夏でも最高気温は27℃くらいまでに留まります。このため高品質なスパークリングワインとともにピノ・ノワールの赤ワインが造られています。

アンダーソン・ヴァレー(Anderson valley/メンドシーノ郡/ノース・コースト)
 ノース・コーストで最も北にあり、太平洋の寒流からの影響でカリフォルニアでは最も冷涼なブドウ栽培地であることから、近年高品質のピノ・ノワールワインの生産地になっています。

サンタ・クルーズ・マウンテンズ(Santa Cruz Mountains/ソノマ郡)
 サンフランシスコの南にあるサンタ・クルーズ山脈を主体にした栽培地で、森林の中に点在していています。太平洋を見下ろす標高で冷涼ながらも日照量が豊富で高品質なワインが造られています。

サンタ・ルシア・ハイランズ(Santa Lucia Highlands/モントレー郡/セントラル・コースト)
 サンフランシスコの南140kmにはモントレー湾があります。そのモントレー湾の南東40kmほどの地にありますが、モントレー湾から吹く冷たい風と霧の影響で非常に冷涼な地域で、その気候と豊富な日照量で高品質なワインが造られています。

サンタ・マリア・ヴァレー(Santa Maria Valley/サンタ・バーバラ郡/セントラル・コースト)
 セントラル・コーストの最も南にありますが、太平洋から吹く冷たい風と霧の影響で非常に冷涼な地域で高品質なワインが造られています。

オレゴン州

 オレゴン州の中で、高品質なピノ・ノワールの産地になっているのは、ウィラメット・ヴァレー AVAです。
オレゴンはカリフォルニア州の北隣。ブルゴーニュとほぼ同じ北緯45度付近に位置し、かつては寒すぎてブドウ栽培が難しいと考えられていたそうですが、ピノ・ノワールの冷涼さを好む特性から今や8,300haの栽培面積となっています。これはオレゴン州のブドウの全栽培面積の57%をも占めるほどです。

 オレゴンの生産者の多くは、小規模な生産者で、単一畑でのワインづくりを大切にしています。

風味の特徴
  熟成を抑えたタイプでは赤いベリーや黒いベリーを香りに感じさせますが、一定程度熟成を経たタイプでは糖度の高さからの甘さは控えめで、香りに甘さが感じられます。樽香が前面に出て感じられるものはあまりなく、熟成に伴う皮革や土、紅茶、クローブなどのブーケに複雑さを増したものが多く造られています。強いタンニンを感じることなく、伸びやかな酸味があります。

オレゴン(ウィラメット・ヴァレー)

ウィラメット・ヴァレー

 ウィラメット・ヴァレーは、オレゴン州北端のポートランドからウィラメット河に沿い南北240km、東西97kmの大きなAVAです。この大きなウィラメット・ヴァレーのなかで、特に北部がピノ・ノワールの主要産地です。
 夏は気温が30℃を超えることがほとんどなく、夕方から夜間かけて太平洋から冷風が吹き、フレッシュな酸を持つ高品質なピノ・ノワールを栽培させています。
 最初にピノ・ノワールが植えられたダンディー・ヒルズ(Dundee Hills)やその東に位置するシェヘイラム・マウンテンズ(Chehalem Mountains)などのサブ・リージョンでは高品質なピノ・ノワールワインが造られています。

  カリフォルニアのピノ・ノワールとは風味の点で違いがあります。香りに感じる甘いニュアンスが、カリフォルニアに比べて抑えめなのです。ただ、それでもブルゴーニュやドイツほど引き締まったイメージはありません。

WILLAMETTE VALLEY 風景とジ・アイリー― ピノノワール

 1965年から1967年にかけてウィラメット・ヴァレー北部にブドウ畑が開かれ、1979年、1980年にはレストランガイド誌ゴーミヨ主催のブラインドテイスティングにおいて、ジ・アイリ―のピノノワール(写真)が10位、2位となり脚光を浴びるようになりました。

 1987年からは毎年7月にピノ・ノワールの祭典「International Pinot Noir Celebration」が開かれるほどピノ・ノワールの地になっています。

ドイツ

 ドイツは、リースリングなど白ブドウで造られる白ワインが主体とのイメージがあります。全ブドウの栽培面積は2019年でおよそ10万ha。白ブドウが2/3、黒ブドウが1/3です。黒ブドウで造られる赤ワインも近年増えてきておりその中でもピノ・ノワールの伸びが著しく、黒ブドウの栽培面積では最大の11,700haです。世界で3番目の栽培面積を誇ります。

 ドイツのピノ・ノワールは、「シュペートブルグンダー」と呼ばれ、比較的暖かい南部のバーデン地方ファルツ地方で広く作られています。

〇風味の特徴

 一般的には花やスパイスの香りが特徴的です。また、酸味やタンニンは控えめで、なめらかながら深みのある味わいや、ミネラル感軽やかでフレッシュな味わいが多いです。果実味と酸味のバランス感はブルゴーニュに似ています。

 ただ、土壌や気候によって様々なスタイルのピノ・ノワールが造られ、畑ごとの味わいの差がしっかりと出た味わいのワインが生産されています。
隣接しているフランス・アルザス地方の味わいに近い酸が効いた軽やかなものもあれば、成分抽出や樽熟(大樽、子樽)をしっかりと行った飲みごたえのあるものも造られています。

ドイツ地図とドイツ・バーデン マルティン・ヴァスマー・シュペートブルグンダー

各々のAVA

 栽培面積順に土壌とワインの特徴を示すと以下のようになります。

バーデン地方

 バーデン地方で作られるワインの41%が赤ワインで、ピノ・ノワールの栽培面積はこの地方では35%を占めます。ドイツ全土で栽培されるピノ・ノワールの約半数がバーデン産です。ドイツでは最も暖かく、ピノ・ノワールの栽培に適した土壌が多い地域だからです。
 火山性の土壌や粘土石灰質土壌のため、造られるワインはミネラル感や酸味が豊かなワインになります。また、比較的色合いが濃く、風味は果実味が豊かでタンニンがしっかりしています。

ファルツ地方
 ピノ・ノワールの栽培面積はこの地方では7%にしかすぎませんが、ファルツ地方の全種類のブドウ栽培面積はドイツで2番目を誇っていて、ピノ・ノワールの栽培面積もドイツでは2番目に多い地域ですまた、ドイツで2番目に暖かい地域で、砂質やローム質の土壌が多いため、軽やかでフレッシュなワインが作られます。また、色合いが淡く、花やスパイスの香りが特徴的です。

ドイツ・バーデン風景
ロシアンヴァレーとフラワーズのピノ・ノアールワイン
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