「ピノ・ノワールを良く知る」シリーズ⑥
これまで5回のシリーズでは、フランス、米国、ドイツ、ニュージーランド、イタリアのピノ・ノワールを具体的に紐解きました。
最終回、第6回目の今回は、オーストラリア・チリ・日本のピノ・ノワールの主なブドウ産地の動向や特徴、地域ごとのワインの製造上の特徴や色合い、香り、風味を解説します。併せて、料理とのマッチングを解説します。
〇ブドウなのに「黒い松ぼっくり」・・・名前の由来
〇寒冷地で育つ小顔の貴公子・・・ブドウの特徴
〇育て方が難しい貴公子・・・ブドウの特徴
〇人気の貴公子にも辛い事情がある
・・・大量には栽培されていない
〇気難しいピノ・ノワール
・・・大量生産に向かない理由
〇多くのブドウ品種のルーツの一つ
・・・ピノ・ノワールの家系図
〇別名の宝庫ピノ・ノワール・・・シノニム
〇ワインは繊細で高貴
・・・ピノ・ノワールは上品なワインを造る
〇ワイン検定(ブロンズ)記載内容
シリーズ③ 「ピノ・ノワールの世界の主なワイン産地とフランス」
〇世界の主なワイン産地
〇【フランス】ブルゴーニュ地方
〇シャンパーニュ地方
〇アルザス地方・ロワール地方
〇【米国】カリフォルニア、オレゴン
〇【ドイツ】バーデン、ファルツ
シリーズ⑤ 「ピノ・ノワールの主要産地(ニュージーランド・イタリア)」
〇【ニュージーランド】セントラル・オタゴ、マーチンボロ他
〇【イタリア】トレンティーノ・アルト・アディジェ他
シリーズ⑥ 「ピノ・ノワールの主要産地(オーストラリア・チリ・日本)」
〇【オーストラリア】ヤラ・ヴァレー他
〇【チリ】サン・アントニオ・ヴァレー他
〇【日本】北海道他
〇料理とのマッチング
オーストラリア
オーストラリアにおける全ブドウの栽培面積は14.6万ha(2015年)です。
そのうち、ピノ・ノワールの栽培面積は3%強の4,800haに留まります。
黒ブドウの中ではシラーズ、カベルネ・ソーヴィニョン、メルローに次ぐ規模ですが、決して多いとは言えません。
フランス(31,600ha)の1/7強にしかすぎません。
しかし、大陸の東南の州であるタスマニア、ヴィクトリア、南オーストラリアの冷涼な地域で栽培がされています。
ヴィクトリア州の冷涼なワイン産地であるヤラヴァレーやモーニントン・ペニンシュラ 、オーストラリア最南端のワイン産地・タスマニア島が人気のピノ・ノワール生産地です。
いずれの地も冷涼な気候であり、その影響から酸味を伴った果実味と繊細な渋みが絶妙なバランスで、凝縮感も感じられるワインが多く造られています。
とはいえ、手ごろなデイリーワインもあり、ピノ・ノワールワインは高品質で人気のあるまで幅広く生産されています。代表的な産地は以下です。
各々の産地
〇ヤラ・ヴァレー
オーストラリアで最高級のピノ・ノワールを生産する産地の1つで、滑らかでバランスの良い赤ワインに加えてスパークリングワイン産地としても有名です。
※シャンパーニュのモエ・エ・シャンドン社がこの地に瓶内二次発酵の「シャンドン」(写真の右)を製造。
〇モーニントン・ペニンシュラ
近年注目を浴びている産地です。少数の小規模生産者が生産していますが、フィロキセラが到達しておらず、多くの畑が自根。栽培面積は1000haで、うち500haがピノ・ノワールを栽培していています。豊かな果実味ながらも渋味と酸味のバランスがとれた上質な味わいです。(写真の真ん中)
〇タスマニア
島全体は北海道全体の8割にあたる広さで、ワイン産地は降雨量が少ない島の東側にあります。地区により、華やかなアロマを持ったエレガントなワインから、骨格のしっかりとした力強いワインまで、多様なスタイルが生み出されています。
〇アデレード・ヒルズ
アデレード市の東にあるマウント・ロフティー山地の上にあり、高品質な赤ワインやスパークリングなどを産します。大小様々な谷があり、その合間に小さなブドウ畑が散在しています。非常に冷涼な気候を反映した生き生きとした赤系果実の香りと滑らかな口当たりが印象的で、バランスの取れたエレガントな味わいです。(写真の左)
チリ
チリでは、2018年現在ではカベルネ・ソーヴィニョンが圧倒的な栽培面積を誇り、4.1万haと全体の3割を占め、ピノ・ノワールは8番目に留まっています。それでも近年ピノ・ノワールは着実に栽培面積を広げています。4,100haの栽培面積で、全ブドウの栽培面積13.7万haの3%にあたります。
主要な産地は、海風が直接吹き込むD.O.アコンカグア・ヴァレーのサンアントニオ・ヴァレーやカサブランカ・ヴァレー、チリ最北端に位置するD.O.コキンボです。冷涼な気候で栽培されたピノ・ノワールからしっかりとした酸味のワインが造られています。
南半球ではブドウは低緯度で栽培されることが多いため、紫外線を強く受けて果皮が厚なります。そのためチリのワインも北半球の産地のものよりも色合いが濃くなります。
また、風味については、ブドウの完熟度が高いため、ベリー系の香りと果実味がしっかりしているのが特徴的です。 ただ、チリのピノ・ノアールは海風と霧の影響を受けているので、風味にもその影響を強く受けた風味があります。
日本
日本におけるピノ・ノワールの栽培は1970年代から本格的に栽培が開始されました。それでも現在、世界と比較すると日本の栽培面積はわずか20ha(2016年)。全世界の栽培面積10.5万haと比較すると、ほんのわずかです。(※1)
一方で、日本国内でのピノ・ノワールの位置付けをみると、ワインに使われた国産生ぶどうは2.1万tですが、ピノ・ノワールの割合は251t(1.2%)に留まり、全ブドウの中では14位、黒ブドウの範囲内で見ても9位に留まります。(※2)
産地別では長野(104t)、北海道(80t)が多く、青森や長野などでも造られています。2017年に発表された研究レポートによれば、長期的な温暖化傾向と1998年頃に起きた気候シフトにより、余市町と空知地方でピノ・ノワールの栽培が可能になり、今後北海道においてピノ・ノワールなどの高品質のワインの生産がさらに拡大する可能性があるとのことです。(※3)
このような環境変化に加えて、近年、魅惑的なピノ・ノワールに挑戦する生産者が増えていますので今後に期待です。
(※1)Which Winegrape Varieties are Grown Where?by Kym Anderson and Signe Nelgen 784ページ)
(※2)国税庁の最新のデータ (※3)農研機構北海道農業研究センター
料理とのマッチング
ピノ・ノワールワインは、チェリーやイチゴ、ラズベリーのような赤い果実の香りが特徴的で、タンニンの渋味は少なく酸味も程よい味わいのワインです。ただし、産地によって、または生産者によって、香りの複雑性や果実味、甘味などの味わいは異なります。
一般的に料理とのマッチングは「調和」、または、「補完」「中和」の考え方によります。
ピノ・ノワールの場合を、その特徴を生かし具体的な料理に照らし合わせてみます。
【調和】
料理のコク、甘味、酸味がワインの香り、果実味、酸味と調和する。・手羽先を使ったコックオーヴァン
手羽先の旨味がワインの果実味と同調する・鴨肉のローストや鶏肉のコンフィ
赤身肉の旨味をワインの酸味がより引き出す・ボロネーゼ
(牛肉と豚肉のひき肉を使ったトマトソースのパスタ)
肉のコクとトマトの酸味にワインの
果実味、酸味が同調する・エビやカニのパスタ
魚介類の旨味をワインの酸味がより引き出す・酢豚(豚肉と野菜を甘酸っぱいソースで炒めた料理)
酢豚の酸味と甘さとワインの酸味・コクが
同調する・野菜や肉の煮物
料理の出汁や醤油の風味がワインの香りと
同調し、煮物の旨みが増す
【補完】&【中和】
料理の五味(塩味、甘味、苦み、旨み、苦み)などの足りない要素を補う、または、バランスをとる・麻婆豆腐(豆腐とひき肉の辛い炒め物)
料理の辛みを和らげ、あわせて料理の
旨みを引き出す・燻製されたチーズ
チーズの香りやコクに対し、
足りない酸味と渋みをワインが補う・カマンベールチーズやブルーチーズ、
アーモンドやくるみ
素材の脂質をワインのタンニンが和らげ
調和させる・チョコレート、チョコレートケーキ、
イチゴタルト、ブルーベリーパイ、
フルーツなどのデザート
素材の甘さとワインの酸味がバランスを
とっている