ドイツワイン産地

ゼクト(Sekt)・・・スパークリングワイン・シリーズ⑫

 ドイツはスパークリング大国言われています。その代表がゼクト。
今回はゼクトの特徴、主要な生産地、ブドウ品種、ワインの種類、歴史、主な生産者などを述べます。

ゼクトとは

 ドイツでのスパークリングワインの年間消費量は4億本を越えます。ドイツ人が飲むワインの5本に1本がスパークリングワインと言われているほどです。全世界で生産されているのスパークリングワインは20億本程度ですからその4分の1にもあたり、世界最大のスパークリングワイン市場です。
 ドイツのスパークリングワインの一般名称は、シャウムヴァイン(Schaumwein)ですが、その中でも高品質なカテゴリに分類されるのがゼクト(Sekt)です。 ゼクトの規定は「20℃で3.5気圧以上、アルコール度数10%以上で、泡は一次発酵または二次発酵によって得られるもの」です。
 ゼクトはシャンパーニュなどとは異なり、制限が緩やかな定義ですから、この基準を満たせはよく、生産国や生産年など異なるベースワインを使用して造ってもゼクトと呼ばれます。

ゼクト分類

 フランスのシャンパーニュやイタリアのプロセッコ、スペインのカバは、産地と品種の条件が厳密に決められています。しかし、ゼクトの基準に産地と品種の条件はありません。さらに、製造方法についても、「泡は一次発酵または二次発酵によって得られるもの」なので、瓶内二次発酵に限るなどといった制約はありません。 
 したがって、ドイツ国内の複数の地域にてゼクトが製造されています。また、使われている品種も複数存在しています。

 シャンパーニュは辛口できめ細かい泡フランチャコルタは果実味を生かしたスパークリングワインといった一般的な特徴がありますが、ゼクトの味わいの一般的な特徴はすっきりとした酸味と、品種由来の華やかな香りが感じられることです。ドイツの冷涼な気候を反映した風味です。

 一般的には上述のような特徴がありますが、ゼクトが造られる地域は多様で、使われるぶどう品種も多様ですので、産地によってその味わいは各種各様です。

主要な生産地

 ゼクトを名乗るにあたっては、産地条件は設定されていませんが、実態として主な産地は一定程度定まっています。
ゼクトが作られている主要産地とその特徴について述べます。

ファルツ
 ゼクトにかかわらず、赤・白など多種類のワインが造られている産地です。エリアによって土壌が多様で、さまざまな種類のワインが造られています。
リースリングをはじめとして多くの品種が植えられており、果実味豊かなゼクトからミネラル感溢れるゼクトまで幅広く製造されています。

モーゼル
 ドイツのフランスとの国境近くにある、モーゼル川流域に広がる産地です。急な斜面に多くのぶどう畑が広がっており、傾斜を利用した日照量の多さを生かしたぶどう栽培が行われている地域です。
主にリースリングが多く栽培され、比較的辛口のゼクトが作られている点が特徴です。

ラインガウ
  ライン川北西のタナウス山脈麓に広がる産地です。日照量が豊富で、朝晩の気温差が激しいため、しっかりと熟したぶどうの栽培が可能。力のあるワインが造られるエリアです。
主にリースリングを主体としたゼクトが多く造られており、果実味が豊富なゼクトが多く造られています。

ドイツワイン産地

ゼクトの使用品種

 ゼクトを作るにあたって品種の制限は特にありませんが、主に使われている品種はリースリングで、まれにシュペートブルクンダーが使われることがあります。それぞれの品種の特徴について見ていきます。

リースリング
 ドイツを代表する白ぶどう品種であるリースリング。果実の熟成が早く、多くの果実をつける点が特徴です。
 白い花や洋梨のようなアロマ果実味、いきいきとした酸味を持ったゼクトに仕上がります。

〇シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)
 ピノ・ノワールの名前で知られる『シュペートブルクンダー』。ぶどうを必要以上に圧搾せず、ワインを作り上げることで白ワインのような色合いを出すことができます。
 果実味、酸味共に強いワインが出来上がります。

〇エルプリング
 ドイツでは、リースリング、ピノ・ノワールやシャルドネなどもスパークリングワインに多く使用されていますが、中世から19世紀ごろまで広範囲で栽培されていた土着品種であるエルプリングが再注目されています。
 税法の変化によりリースリングやシルヴァーナーなどへの植え替えが進んだことから、現在では栽培面積がリースリングの2%ほどの503ha(2017年)まで縮小していました。しかし、エルプリングはモーゼルの一部地域でゼクトの原材料などに使用されています。
 他の品種よりも糖度が低い状態で完熟し、果皮が薄くてカビがつきやすいというデリケートさがあります。酸味がかなり強くフルーティーでフレッシュな飲み心地があり、スパークリングワインに適した品種です。

エンブリング

ゼクトの製法

 ゼクトには以下の四つの製法が認められています。

トラディショナル方式/瓶内二次発酵方式
 シャンパーニュや高級なスパークリングワインに採用されている製造法です。スティルワインに酵母と糖分を混ぜた液体を加えて瓶詰めし、密閉した瓶内での二次発酵にて泡を発生させる方式です。
 ゼクトでは、後述するゼクト b.A.など高品質なスパークリングに多く使用されています。

トランスファー方式/トランスヴァジア法
 トラディショナル方式と同じく瓶内二次発酵によって泡が発生しますが、冷却と濾過を加圧下のタンクで行うという、一部簡略化された方式です。

シャルマ方式/大型容器醗酵法
 大きなタンクで二次発酵を発生
させる方式。上記二つの方式よりもコストがかからず、短期間で製品化できます。ブドウのアロマを強く残したいものを造る場合に有効です。
 ゼクトにはアロマティックな品種であるリースリングを原料とするものが多いため有用で、ドイチャーゼクトクラスまではこの方式で造られることが多くなっています。

田舎方式/メトード・リュラル方式
 発酵途中のワインを瓶に詰めて、残りの発酵を瓶内で継続させる方式。古くからスパークリングワインに採用されてきた製法で、ドイツの場合はガス圧の低いペールヴァインで多く採用されています。
 ※図はWines of Germany 日本オフィスのHPの資料を参考

ゼクトの製法

ゼクト格付けと種類

 ゼクトを名乗るには、前述したように、一般的にはブドウの生産国や生産年、特定の産地や品種、製造方法の制約はありません。あるのは、「一次醗酵、あるいは二次醗酵を経て生産され、実質アルコール度数が10% Vol.以上あり、炭酸ガス圧が3,5バール以上」という条件だけです。

 ただ、その中でも制約を加えて次のような細かな種類を定めています。
前項にて、ゼクトを名乗るための条件を記載しましたが、どの産地のぶどうを使っているかによって、5つの格付けが行われています。
では具体的にどんな条件かを見ていきましょう。

ゼクト
 ドイツ国内外で栽培されたぶどうを使い、ドイツ国内で作られているスパークリングワインです。国外のぶどうを使用可能な点が特徴となります。

ドイッチャー・ゼクト
 ドイツ国内にて栽培されたぶどうを使用
、ドイツ国内で作られるスパークリングワインです。

ゼクトの種類

〇ゼクトb. A. (指定生産地ゼクト)
 ドイツの指定13地域で栽培されたぶどうのみを使用して、ドイツ国内で作られる
スパークリングワインです。
 ブレンドと原産地表示に関しては、クヴァリテーツワインb.A.と同等の厳格な規定に従って造られ、品質に関しては公的検査を受けます。

ヴィンツァーゼクト
 単一の醸造所や協同組合が収穫したぶどうを使用
し、決められた製法にて作られるスパークリングワインです。併せて、 9ヶ月以上の熟成が必要となります。
個々の醸造所の個性ある製品で、伝統的な醗酵法を経て生産されます。ヴィンテージ、ぶどう品種、生産者名は常にエティケットに表示します。 ヴィンツァーゼクトは生産者元詰製品です。

クレマン
 ゼクトの中でも最高クラスのスパークリングワインです。以下に挙げる厳密な基準をクリアしたゼクトのみ名乗ることが可能で、指定産地名と合わせて表示することが認められます。
例えば「クレマン・バーデン(Crémant Baden)」「バーデン・クレマン(Baden Crémant)」などと表示されます。
 ・「ゼクトb.A.」のカテゴリーに属する
 ・最低9ヶ月酵母の澱と接触して寝かせたもの熟成
 ・伝統的な醗酵法(酵母法)で生産されたもの
 ・白ワインのゼクトの場合は、全房圧搾でモスト(150kgのぶどうから最大100リットルのモスト)を得ている
 ・1リットルあたりの亜硫酸塩添加の上限が150mg
 ・1リットルあたりの残糖量が50g以内

甘辛度別の分類(6種類)

ドザージュ・ゼロ:一番ドライです。(1ℓ中3gまでの残糖量、ワインの自然な残留)
エクストラ・ブリュット:非常にドライです。(1ℓ中6gまでの残糖量)
ブリュット:ドライ、しかしエクストラ・ブリュットよりも少し柔らか。最も汎用的なタイプです。(1ℓ中12g以下の残糖量)
エクストラ・ドライ: 典型的なブリュットよりわずかに柔らかです。(1ℓ中12〜17gの糖分)
セックまたはドライ: レスドライで少し甘口です。(1ℓ中17〜32gの糖分)
デミ-セック:甘口です。(1ℓ中33〜50gの糖分)

ゼクトの歴史

 シャンパーニュは1729年Ruinart(リュイナール)社が商業販売を開始しましたが、18世紀末から19世紀前半にかけては多くのドイツ人が先進国フランスに移住し、シャンパン・メゾンでも働いていました。その中でドイツに帰国したゲオルグ・クリスチャン=ケスラーという人物がドイツでゼクトの製造を始めました。
 その成功により多くのヴィンツァー(醸造所)が起業し、19世紀半ばになると、ゼクト産業はシャンパーニュと市場を競うほど発展します。
 こうして、ドイツにおいても、ゼクト造りの伝統と文化が根付くようになりました。

ゼクトの名前の由来

ゼクトの名前の由来については、確定的なものはありませんが次のような説があります。

①ラテン語由来説
 第一次世界大戦で敗戦国となったドイツは、ベルサイユ講和条約で「ドイツ製品はフランス名を使用できない」という条項が盛り込まれました。この条項があるため、ドイツ産のスパークリングワインはそれまでのようにシャンパーニュと呼ぶことができなくなりました。辛口を意味するラテン語の言葉、シックス(siccus)がドイツ語風に訛り、ゼクトと呼ばれるようになったという説です。

舞台俳優・ルードヴィヒ・デヴリエン起源説
 19世紀のはじめ
、ルードヴィヒ・デヴリエンという舞台俳優の一言が起源という説です。彼はシェークスピアの『ヘンリー4世』を演じていて、公演後を終えベルリンのワイン酒場にやってきました。公演を終えたばかりの彼は、酒場の主人に劇中のセリフで「サックを1杯頼む!」と注文しました。
 「サック」はシェリー酒のことですが、酒場の主人は、常連である彼がシャンパーニュ好きであることを知っていましたので、シャンパーニュを出したということです。以来、このワイン酒場ではシャンパーニュのことを「サック」、ドイツ読みでは「ザック」と呼ぶようになり、それが訛って「ゼクト」になったという説です。

リースリング畑

主な生産者

〇ヘンケル社
 アダム・ヘンケル氏が1832年、マインツにワイン商を創設し、1856年からスパークリングワイン製造を開始したヘンケル社。「ゼクト」を代表するワイナリーです。
ヘンケルは現在、ヴィスバーデンを拠点とするドイツで最大かつ最も近代的なスパークリングワイン醸造所であり、ヘンケル社のゼクトは世界90ヶ国に輸出され、それぞれの市場でフランスのシャンパンに肩を並べるほどの高い評価を得ています。
ヘンケル・トロッケンだけでも年間2,000万本を世界中で販売しており、最大の輸出量を誇るスパークリングワインプランドへと成長しています。

ヘンケル
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