シャンパーニュ地方

ブドウ栽培農家の暴動・・・シャンパンのそうだったのか!⑯

 1871年に終結した普仏戦争の敗北から復興には相当な時間がかかると思われました。
しかし、フランスは実際には大躍進を遂げました。それはこの時期に成し遂げられた機械化など近代的産業システムと鉄道網によるところが大きかったのです。未曽有の豊かさと多様性を誇った時代で、シャンパーニュにとっては黄金時代ともいえる時代でした。

 ところが20世紀が幕を開けると、シャンパーニュには募る不安が漂い始めました。

(シャンパンメゾンに対する栽培者の不満)

 成長の要であった鉄道は、メゾンにとっては武器であったのですが、ブドウ栽培者にとって災いのもとでした。
というのは、鉄道輸送によってメゾンにとってはシャパーニュ地方以外の安いブドウの入手が容易になり、メゾンが他地域のブドウやワインを製造に使い始めました。そうなると、ブドウ栽培者の収入は減り、メゾンとの関係は悪化しました。

  1890年には幾つかのメゾンがブドウ買取価格を結託して固定していたことがわかり、ブドウ栽培者たちの不信感を募らせました。1911年1月には栽培者たちがメゾンを襲うという暴動が起こり、半年余り騒乱状態が続きました。
当時シャンパンという呼称を使うには「使用するブドウの51%はシャンパーニュ産でなければならない」と謳っていたので、残りの49%は別の地域のブドウでも良く、中にはブドウ以外のリンゴや梨の果汁を混ぜる者もいました。

 悪いことに、1890年から1907年までのブドウの収穫は毎年みじめな状況でもあり、さらにフィロケセラが畑を蝕び始めた状況でした。
1892年には14エーカーの畑がむしばまれたが1900年には1581エーカー虫害が急拡大しています。

(ブドウ栽培者間の分裂)

 シャンパーニュは主として2つの栽培地からなっています。
中心的なマルヌ県(3.7万エーカー)とブルゴーニュに近いオーブ県(0.5万エーカー)です。
しかし、当時シャンパーニュ地方がどこかは規定されておらずオーブ県がシャンパーニュ地方に入り「シャンパーニュ」と称することができるかどうかは、オーブ県にとって死活問題でした。

 このシャンパーニュの境界問題について、マルヌ県とオーブ県は対立しました。
時の政府はシャンパーニュへの帰属問題に対する有効な策を打ち出せず、1911年2月にはオーブが大規模なデモを起こします。この状況で議会はオーブ県をシャンパーニュ地方から排除した3年前の法律(1908年)を廃棄する勧告を議会決定しました。
 すると今度はマルヌが1万人もの大群衆による暴動を起こし、軍隊までが出動する騒ぎになりました。

 数千本のブドウの木が燃やされ、6件のメゾンや少なくとも40軒の建物が破壊されました。マルヌ川には600万本分のシャンパンが流れ込んだと言われます。

マルヌ県とオーブ県
マルヌ県とオーブ県

(紛争の解決)

 この「シャンパンメゾンに対する栽培者の不満」「シャンパーニュの境界問題を巡っての紛争」の収拾には時間がかかりました。第一次世界大戦が起こったのです。

 1919年には、ブドウ栽培・ワイン製造に関わる不正行為を排除する法律を通過させました。これによりシャンパンはシャンパーニュ地方で作られたブドウのみを使わなければならないことになりました。ブドウ栽培者のメゾンに対する不満の種がまずは取り除かれたのです。

 そして、1927年にオーブ・マルヌ両地域の不和も解消されることになりました。政府は、1911年の暴動の後にオーブを「シャンパーニュ第二地区」とラベルに明記するよう定める法律を作りました。この格付けの廃棄がなされ、オーブはマルヌと同じ「シャンパーニュ」と明記できることになったのです。

 1914年に起こった第一次世界大戦を経験して、シャンパーニュは共通の敵に直面して生き残るには一致団結しなければならないという事に、この時気が付いたのです。シャンパーニュは第一次世界大戦からの教訓を生かしました。

(シャンパーニュ委員会の設立)

 そして1941年、シャンパーニュ委員会(シャンパーニュ地方ワイン 生産同業委員会)が設立されました。
 この委員会はブドウ栽培農家とネゴシアンの両者が理性を持って協調してシャンパン事業にあたるために設立されたもので、ネゴシアンにブドウを供給する栽培者、自家栽培のブドウを使い生産協同組合でシャンパーニュを製造する栽培業者(レコルタン・コーペ ラトゥール)、または自家栽培のブドウで自家製シャンパーニュを製造する栽培業者(レコルタン・マニピュラン)など、合計2万1千人のブドウ栽培業者、世界の3分の2のシャンパーニュを販売する320社のネゴシアンが属すことになりました。

20世紀年表
20世紀年表
シャンパーニュ地方
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