モンターニュ・ド・ランス

シャンパンのブドウは「山」「谷」「丘」で栽培される。・・・シャンパンの表と裏側⑤

 シャンパーニュ地方のブドウ畑は5つの大きな地区に分かれており、最も遠い地区は200km以上離れています。大小の川が流れ、いくつもの丘(コトー)が連なり、さまざまな土壌と下層土からなります。
この多様性が、数十年に及ぶ、各地区の栽培条件に適したブドウ品種の栽培を決定付けるものとなっています。

 シャンパーニュの5地区のうち3地区が最も知られています。そのキーワードは、「山」、「谷」、「丘」
それぞれの地形こそ異なりますが、良いブドウが栽培されている地は、「傾斜地」です。以下に5地区の特徴を述べます。

(1)モンターニュ・ド・ランス地区 Montagne de Reims

 モンターニュ・ド・ランスは、「ランスの山」という意味。シャンパーニュの中心地都市であるランス(Reims)とエペルネ(Eperney)の間に標高が300メートルにも満たない森となっている山があります。
 その裾野に沿って傾斜地にぶどう畑が広がっています。時計で言えば0時から時計回りに6時までの斜面です。

 ランスに近い地域(地図のVerseneyやVerzy)では北向きの斜面のブドウ畑です。ここでは東と西に太陽の光を遮るものがないため、日照量が豊かで北向き斜面でのぶどう栽培も可能となっています。
また、山の東南エリアにある、ブジー村とアンボネー村は南斜面という地の利を生かして素晴らしいピノ・ノワールを産出しています。

 モンターニュ・ド・ランスではシャンパーニュ地方全体のぶどうの約8割近くを栽培していて、グラン・クリュ村の数はシャンパーニュ地区で最多の9つ、プルミエ・クリュも22の村が指定されていて質量ともに最良の地域です。

 この地区の土壌は浅い位置こそ粘土質ですが、白亜の石灰質土壌が地層深くまであることがそのブドウ品質を高めている要因でもあり、高品質のピノ・ノワールが栽培されています。シャルドネもムニエも栽培されていますが、黒ブドウ品種・ピノ・ノワールから造られるブラン・ド・ノワールでは、上質なものが多く造られています。なお、優れた赤ワイン“コトー・シャンプノワ”も生産されていることもこの地区の特徴です。

 メゾンとしては、有名なクリュッグ、ヴーヴ・クリコ、ロデレール、テタンジェなど大手メゾンがここモンターニュ・ド・ランスに本拠地を構えています。

モンターニュ・ド・ランス
モンターニュ・ド・ランス
モンターニュ・ド・ランス地区
モンターニュ・ド・ランス地区

●モンターニュ・ド・ランス地区の代表的な生産者
〇ランス
・ヴーヴ・クリコ
・テタンジェ
・G.H.マム
・シャルル・エドシック
・ルイ・ロデレール
・クリュッグ
・ポメリー
〇アンボネイ
・アンリ・ビリオ(RM)
・エグリ・ウーリエ(RM)
〇ヴェルジィ
・ムーゾン・ルルー・エ・フィス

〇ブージィ
・ブノワ・ライエ(RM)
〇マレイユ・シュル・アイ
・ビルカール・サルモン
〇メルフィー
・シャルトーニュ・タイエ(RM)
〇シャメリー
・フレデリック・マルトレ(RM)
〇リュード
・ユレ・フレール
〇ヴェルズネイ
・ミッシェル・アルノー・エ・フィス

(2)ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区 Vallée de la Marne

 ヴァレ・ド・ラ・マルヌは、「マルヌ川の渓谷」という意味です。シャンパーニュ地方の中央を東から西に横切って流れるマルヌ川は、パリのセーヌ川に合流しています。マルヌ川の渓谷に沿い、80km以上に渡って斜面にブドウ畑が広がっていて沿岸の村の内、グラン・クリュは2村が、プルミエ・クリュは11村が指定されています。

 ヴァレ・ド・ラ・マルヌは、川沿いで谷が多く湿度が高いため、春の霜の影響を受けやすい地域です。そのため、開花が遅くて収穫が早く、病害にも強く丈夫なピノ・ムニエが多く栽培されていて8割近くを占めています。

 なお、土壌は石灰岩、泥灰岩、粘土質、砂質と多様な土壌から構成されています。地層深くでは、褐色土壌もあり、水はけの良さと保水性を持っています。
 地域の西側ではムニエ種が主に栽培されてますが、東側の『アイ』村や『トゥール・シュル・マルヌ』村ではピノ・ノワール種が栽培されています。『アイ』村に大手メゾンは集中しています。

ヴァレ・ド・マルヌ
ヴァレ・ド・マルヌ
ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区
ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区

●ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区の代表的な生産者
〇アイ
・ボランジェ
・ドゥーツ
〇トゥール・シュル・マルヌ
・ローラン・ペリエ
〇エペルネ
・モエ・エ・シャンドン
・ペリエ・ジュエ
・ポル・ロジェ

(3)コート・デ・ブラン地区 Côte des Blancs

 コート・デ・ブランは、「白い丘」という意味です。エペルネの南にまっすぐ南北に繋がる丘があります。その丘の東向きの斜面が栽培地域になっています。

 畑は、日照に恵まれ日照時間は2100時間に及ぶこともあるほど多く、土壌もシャンパーニュ地方の中でも特に優れた石灰質土壌です。地表すぐ近くに石灰質が広がり、白亜の大地が露出しているような場所もあります。石灰質は保水性も高く、良質のミネラル分を豊富に含むことから、一定した水分を必要とし、ミネラル分によって複雑な味わいを生み出すシャルドネの栽培がほとんどです。作付け比率も95%以上をシャルドネが占めています。

 コート・デ・ブランで造られるシャンパーニュは、ミネラルを豊富に含み卓越したエレガンスさを備えています。そのため、錚々たるメゾンの上級キュベがこの地で造られています。コート・デ・ブランといえば、「ブラン・ド・ブラン」の聖地。シャンパーニュの中でも単一品種、シャルドネ100%で造られます。
 グラン・クリュは6つ、プルミエ・クリュは9つ指定されています 

コート・デ・ブラン
コート・デ・ブラン
コート・デ・ブラン地区
コート・デ・ブラン地区

●コート・デ・ブラン地区の代表的な生産者
〇アヴィーズ
・ジャック・セロス
・アグラパール・エ・フィス(RM)
〇ル・メニル・シュル・オジェ
・サロン
・ドゥラモット ・フルール・ド・ミラヴァル
・ギィ・シャルルマーニュ(SR)
・クロード・カザル(RM)
・ピエール・ペテルス(RM)
〇オジェ
・シャンパーニュ・ド・ラ・ルネッサンス(RM)
〇シュイイ
・R &Lルグラ
〇クラマン
・ランスロ・ピエンヌ(RM)

(4)コート・デ・セザンヌ地区 Côte des Sezanne

 コート・デ・ブランのすぐ南に位置していて、コート・ド・ブランと同じく白亜土壌ですがやや粘土質が加わります。この地区は古くから大手メゾンにとって高品質のぶどうの供給源です。

(5)コート・デ・バール地区 Côte des Bar

 シャンパーニュ地方の最南端に位置するコート・デ・バーの「Bar」は、ケルト語の(頂点)に由来しています。森林、丘陵地、農作物が交互に現れる風景が特徴ですが、畑は、キンメリジャン石灰岩の上に築かれたジュラ紀の斜面から構成されています。
 すぐ南にはシャブリがありますが、土壌はやや石灰分が少なく、石灰岩と泥灰土の層が交互に重なっていて、緩やかな斜面も急斜面もある日照に恵まれた水はけの良い場所にあります。

 この土壌を好むピノ・ノワールの栽培が多いのが特徴で全栽培面積の8割を占めます。シャンパーニュのみならず白ワインの産地でもあり、更には、村の名前がついたロゼワイン“ロゼ・デ・リセー”の産地でもあります。

 他のシャンパーニュの生産地区からかなり離れた南に孤立していることから、20世紀に入ってからかつてこの地区で造られたものはシャンパーニュと呼べないとされ、生産者たちから暴動が起こったこともありました。
シャンパーニュ地方の境界線が引かれたのは1908年でしたが、この時はコート・デ・バールのあるオーブ県はシャンパーニュに含まれませんでした。様々な経緯からマルヌ県とオーブ県のブドウ栽培者を中心に対立が起こりついに大きな紛争に発展しました。第一次世界大戦を挟んで紆余曲折の末、この地区がA.O.C.シャンパーニュと名乗ることができるようになったのは1927年でした。

シャンパーニュ地方
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