アイキャッチ①メルロー

第1回 ぶどう「メルロー」の素顔・・・「メルローを良く知る」シリーズ①

「メルローを良く知る」シリーズ①

 

 このシリーズでは、メルローについて深堀りします。多くの人に愛されている万人のワインです。世界各地での違いがよくわかるようにメルローワインについて記載します。
どんなブドウかどんなワインを造り出すか、世界各地で造られるメルローワインの生産地料理とのマッチングなどを紐解きます。

第一回は、ブドウ「メルロー」の実像に迫ります。

シリーズ① ぶどう「メルロー」の素顔
 〇「名脇役」メルロー・・イメージ
 〇名脇役である理由・・・ブドウの実像
 〇健康的にすくすく育つ青年
 〇多くの人に愛される中庸の好青年
 〇演じれば名脇役、時に主役もこなせる
 〇メルロー(Merlot)
   ワイン検定(ブロンズ)記載内容

シリーズ② 世界のメルローの起源・親族
 〇起源は鳥の「ツグミ」
 〇義兄弟の多いメルロー・・・親族関係
 〇黒ブドウの中の中庸の品種
 〇世界で造られるメルロー・・・栽培面積

シリーズ③ ワインの風味と世界の産地
 〇最大の長所=口当たりの良さ
  ・・・一般的な風味
 ・ワインの色、香り、味わい
 〇気候の違いによる風味の変化
 〇ニューワールドの風味
 〇熟成による風味の変化
 〇世界の主なワイン産地

シリーズ④ メルローのワイン産地(フランス・イタリア)
 〇フランス
 〇イタリア

シリーズ⑤ メルローのワイン産地(米国・スペイン・チリ)
 〇米国
 〇スペイン
 〇チリ

シリーズ⑥ メルローのワイン産地(ニュージーランド・日本)と料理とのマッチング
 〇ニュージーランド
 〇日本
 〇料理とのマッチング

「名脇役」メルロー

 世界のワイン用ブドウとして、カベルネ・ソーヴィニョンに次いで多く栽培されているメルロー。多くの人に愛されているとは言え、カベルネ・ソーヴィニョン、ピノ・ノワール、シャルドネなどに比べるとは華やかなイメージはなく、落ち着いたイメージです。ワインショップに赴いても、「メルロー」ワインは比較的数も少なく影の薄い存在に見えます。

 メルローといえば、フランス・ボルドーの名前が浮かぶでしょう。そのボルドーは、赤ワインの王者カベルネ・ソーヴィニョンで造られる銘醸地です。そのボルドーにおいてメルローは栽培面積こそカベルネ・ソーヴィニョンの2倍もあるにもかかわらず、主役はカベルネ・ソーヴィニョン。カベルネ・ソーヴィニョンを支える脇役としての役割です。

 強すぎるカベルネ・ソーヴィニョンを風味において和らげる働きをする、あるいは、年によって品質のばらつきがあるカベルネ・ソーヴィニョンの風味を補い調整するのです。カベルネ・ソーヴィニョンのボルドーワインはメルローがあってこそ高品質なワインを生み出すことができるという点において、「名脇役」です。

メルロー

 メルローが名脇役である理由を紐解いていきたいと思います。
メルローを人に例えるならば・・・

健康的にすくすく育つ青年

 メルローは大きめの房と中程度の果粒です。カベルネ・ソーヴィニョンと比較すると房も粒も一回り大きいのがわかります。芽吹きは早く比較的早熟なので、収穫期に雨が懸念される産地では重宝されます。成熟する前に収穫されると、ミントやメントール、ピーマンのような「青い香り」を感じますが、カベルネ・ソーヴィニヨンに比べると控えめです。


 しかし、心配する必要はあまりありません。短期間に成熟したぶどうになります。成熟すると、糖があがり果実味にあふれます。実際フランス・ボルドーではカベルネ・ソーヴィニョンに比べても2~3週間早い時期に収獲ができています。


 また樹勢が強く、収量制限をしないと大変に多くの実をつけます。このことは、後に述べるように主役カベルネ・ソーヴィニョンを補佐するうえで重要な特性です。収穫期の雨でカベルネが不出来な年は、ブレンドにおけるメルロの比率を増やすなど調整がきくのです。

多くの人に愛される中庸の好青年

 メルローは際立った個性はありません。ですから単独で表舞台に積極的に出ることは少ないです。しかし、シャルドネと同様に、適応力が高く比較的育てやすい、そして品種個性が強くない特性長所となっています。


 気温に敏感すぎないこと栽培しやすいことブドウとしての癖が強くないことは、ワインの造り手にとってはその哲学やトレンドをワイン製造の際に反映されやすいのです。
 メルローも他の多くのブドウ品種同様にうどん粉病や灰色カビ病などには弱く一見すると栽培の難しそうなブドウですが、病気に比較的強く世界中で多く栽培されています。どこでつくっても良いぶどうが取れるため、世界中で人気があります。


 そして、地域ごとにシノニムを持たず、世界中どこでも「メルロ」と呼ばれるのも愛されているからなんでしょう。白ワインの女王・シャルドネと同様に、赤ワインにおける「名前を変えない静かな人気者」です。

メルロー④

演じれば協調性のある名脇役、時に主役もこなせる

 メルロの故郷ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンが主役、メルロは脇役力強く太い骨格と強い渋みを持つカベルネに対して、メルロが柔らかな果実味と滑らかな食感をプラスし、補完しています。


 ボルドー左岸エリアではカベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドする事で、カベルネ・ソーヴィニヨンの硬さをメルロの果実味が包みこんで、飲みやすくするという役割を担っています。熟しにくい主体品種の味わいに、果実味とまろやかさを加える名脇役です。このようにメルローがボルドーでブレンド品種として名脇役になっている背景には、メルローのもう一つの特性が関係しています。


 それは土壌との関係です。カベルネ・ソーヴィニョンは砂利質を好みます。砂利質は水はけがよく、土が温まりやすくブドウの成熟を促します。方や、メルローは粘土質土壌を好みます。粘土質土壌は水分が多くて保水性が良い土壌です。保湿性が良いということは冷たい土壌でもあるということですが、晩熟のカベルネ・ソーヴィニョンには冷たい土壌は適せずともメルローは適応できます。


 このようにカベルネ・ソーヴィニョンの適さない土壌でメルローが育ちつつカベルネ・ソーヴィニョンを支えているのです。砂利質が多いボルドー左岸のメドックではカベルネが多く粘土質の広がる右岸でメルロの栽培が多いのは、土壌の違いによってカベルネ・ソーヴィニョンとメルローのすみ分けができています。ボルドーの右岸地区として代表的なサン・テミリオン地区ポムロール地区。それらの主な土壌は粘土を含む石灰質と粘土質です。この地域では単一のメルローから素晴らしいワインをも生み出しています。

メルロー(Merlot)・・・ワイン検定(ブロンズ)記載内容

どんなブドウ?

粒の大きさは中庸で、大きめの房を持つ赤ワイン用ブドウ品種です。フランスのボルドー地方が原産で、カベルネ・フランとマドレーヌ・デ・シャランとの自然交配で生まれた品種と言われています。

・ボルドー地方というとカベルネ・ソーヴィニョンのワインと思われがちですが、メルロの栽培面積はその2倍以上にもなっています。

多産で病気にも強く早期に成熟して滑らかな果実味が出ることから人気になり、世界中で栽培されています。

・ワインは甘美で肉厚な果実を思わせる香りがあり、低めの酸と柔らかく包み込むような果実味柔らかなタンニンが心地よく、まろやかで豊潤な味わいが特徴です。

・世界各国でワインは造られていますが、原産であるフランスのボルドー地方、特にサン・テミリオンやポムロールでは世界的な銘酒を生み出しています。

・そして日本でも広く栽培されており、特に長野県の塩尻市周辺は秀逸なワインが生まれています。

●ワインの印象

外観
濃縮感のある黒みがかったダークチェリ―レッド
〇香り
カシス、ブルーベリー、スミレ、カカオ、プラム、ビターチョコレート、ロースト、ヴァニラ
味わい
タンニンの渋みは穏やか、濃厚で滑らかな口当たり

代表的な産地の栽培面積

①フランス108,400ha
②イタリア24,000ha
③米国21,200ha
④中国16,700ha
⑤スペイン12,800ha
⑥チリ11,400ha
⑦ルーマニア11,600ha
⑧ブルガリア10,000ha
⑨オーストラリア8,400ha

※栽培面積は、「which winegrape varieties are grown where?」University of Adelaide Press by Kim Anderson and Signe Nelgen (2020)304pより

アイキャッチ①メルロー
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