アイキャッチ③メルロー

第3回 ワインの風味と世界の産地・・・「メルローを良く知る」シリーズ③

「メルローを良く知る」シリーズ③

 第3回目は、世界中で造られているメルローワインの風味について、共通した方向、さらには風味の変化を紐解きます。そして世界の各国産地の栽培状況を見てみます。

シリーズ① ぶどう「メルロー」の素顔
 〇「名脇役」メルロー・・イメージ
 〇メルローが名脇役である理由・・・ブドウの実像
 〇健康的にすくすく育つ青年
 〇多くの人に愛される中庸の好青年
 〇演じれば協調性のある名脇役、時に主役もこなせる
 メルロー(Merlot)・・・ワイン検定(ブロンズ)記載内容

シリーズ② 世界のメルローの起源・親族
 〇起源は鳥の「ツグミ」
 〇義兄弟の多いメルロー・・・親族関係
 〇黒ブドウの中の中庸の品種
 〇世界で造られるメルロー・・・栽培面積

シリーズ③ ワインの風味と世界の産地
 〇最大の長所=口当たりの良さ
  ・・・一般的な風味
 ・ワインの色、香り、味わい
 〇気候の違いによる風味の変化
 〇ニューワールドの風味
 〇熟成による風味の変化
 〇世界の主なワイン産地

シリーズ④ メルローのワイン産地(フランス・イタリア)
 〇フランス
 〇イタリア

シリーズ⑤ メルローのワイン産地(米国・スペイン・チリ)
 〇米国
 〇スペイン
 〇チリ

シリーズ⑥ メルローのワイン産地(ニュージーランド・日本)と料理とのマッチング
 〇ニュージーランド
 〇日本
 〇料理とのマッチング

最大の長所=口当たりの良さ・・・一般的な風味

 メルローは第1回で述べたように、ブレンドさせることが多いのですが、まずは単体で醸造させた際の風味について考えてみます。

(ワインの色)
 果皮はやや薄いためアントシアニンの量は少なめ。このためワインの色味は単体では濃すぎるほどではなくやや朱色を帯びています。

(香り)
 プラム(写真下)やブラックチェリー(写真上)などを連想させる、肉厚な果肉を持つ濃い色の果実が熟した香りです。カベルネ・ソーヴィニョンがヴァイオレットやブルーベリーのような、フローラルな香りがするのとは対照的です。

(味わい)
 低めの酸と、包み込むような豊かな果実味やわらかなタンニンなど、まろやかで豊満な味わいが特徴です。適度な重みとコクがあり、酸味が少なめなので、口当たりの良いワインになります。高品質なメルローワインでは、舌触り「シルキー」「絹のような」「滑らかな」と表現されることさえあります。

ブラックベリー

 カベルネ・ソーヴィニヨンほど味やタンニンが強くないことが、メルローワインに優しく朗らか、芳醇で丸みを帯びながらも繊細な味わいをもたらす大きな要素となっています。このように、タンニンと酸味が少ない点が、「メルロー=飲みやすい」と人気のある由縁です。
 しかし、酸やタンニン量の少なさは逆に弱点でもあり「熟成能力が劣る」ことでもあります。メルローはカベルネ・ソーヴィニョンの熟成能力がと比べると劣るとも言われる由縁でもありました。
 ともあれ、単体でのメルローワインは飲みやすさという点で愛される風味を持っています。この長所は、他の品種と組み合わせる際にも発揮されています。例えば、カベルネ・ソーヴィニョンは熟成能力が高く、ワインの風味に複雑性を持つポテンシャルの高さがあります。これにメルローを加えることで、メルローの果実味、まろやかさが付加されバランスが取れて飲みやすいくなるのです。

 カベルネ・ソーヴィニョンやサンジョヴェーゼの産地ではメルローは欠かせないパートナーとなっています。

プラム

香り 
プラム、ブラックチェリーなど肉厚な果肉を持つ濃い色の果実の香り
アタック(口当たり)

滑らかな舌ざわり。まろやかで口当たりが良い
果実味、酸味
低めの酸と、包み込むような豊かな果実
タンニン
穏やかなタンニンで渋みは弱い
メルローの風味のまとめ

変化する風味

 以上のように、メルローの風味の一般的な方向を述べましたが、ワインは一般的に栽培地域の気候や土壌、収穫時期や栽培方法、醸造方法によって風味に変化を伴います。メルローの場合の変化を述べます。

気候の違いによる風味の変化

 栽培地域が冷涼な場所の場合、「ピラジン」というピーマンのような青くさい香り成分が出やすくなります。一方、暑すぎる地域での栽培の場合、メルローは糖度が上がりやすいため、ブドウが過熟気味になりワインもべた付くような味わいになることもあります。
 フレッシュな味わいを保つためには、ブドウの熟度と酸度のバランスの良いワイン造りをする生産者を選びたいものです。

ニューワールドの風味

 アメリカやチリなどのニューワールドで造られるワインは、ブドウの成熟度が高いため一般的によりアルコール度数が高く、凝縮感があり果実味のまろやかなワインが多くなります。
 その中でも、オーストラリアやニュージーランドのメルローは、ユーカリやミント、メントールを伴った濃縮感のあるベリー系の香りが感じられますし、カリフォルニアやチリでは、チョコレートやヴァニラなどの甘みのある香りを伴います。

熟成による風味の変化

 また、鉄分の多い土壌などで熟成能力が高くなるよう栽培されたメルローで造られると、複雑な香りが加わり、若い頃のワインとは異なった表情を見せます。フランス・ボルドーのポムロールなどはこの例です。
極上のものだと「ビロードのような」とも称されるなめらかな口当たりに加えて、熟成により加わるドライフルーツやクローブなどの複雑なブーケを愉しめます。

世界の主なワイン産地

 メルローはボルドー原産だけあって、フランスが圧倒的に高い栽培面積を誇り、世界シェアの40%を占めています。また、ヨーロッパの各国は勿論、新世界の国々をはじめ、黒海沿岸のルーマニア、ブルガリア、モルディヴァなど世界各国に産地があります。

  ただメルローの栽培地域は、これまでシリーズで記載したピノ・ノワールやリースリングほどの冷涼な地域ではなく、それよりも温暖な地域です。黒ブドウの中では冷涼さにも強いほうなので、ヨーロッパでも比較的暖かいイタリアやスペインでも適度に冷涼で粘土質の地域で造られています。また新世界の比較的温暖な国でも寒すぎず、暑すぎずといった地域で多く栽培されていると言えます。

 しかし、栽培地に関しての最大の特徴は、「一部を除きメルローだけを使った単一ワインを造る産地はあまりない」という点です。多くの産地は「カベルネ・ソーヴィニヨンを造る。と同時にメルローも併せて栽培する」といった産地です。概して言うならば、「カベルネ・ソーヴィニヨンサンジョベーゼにブレンドするためにメルローが植えられている。品種ごとに数種類のワインを造るうちの一つがメルロー」というところがほとんどです。

メルローの栽培面積(国別・2016年)
メルローの栽培面積(国別・2016年)

出典:Which Winegrape Varieties are Grown Where?(Revised Edition)by Kym Anderson and Signe Nelgen

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