冬のシャンパーニュ地方

シャンパンの歴史は17世紀末から、実は英国が先駆けだった・・・シャンパンのそうだったのか!⑧

(自然発泡のワイン)

 古代から赤ワインが中心であったシャンパーニュ地方のワインが発泡性ワインに変わっていった契機は17世紀末からです。
1670年から1720年にかけて、シャンパーニュワインの歴史に転機が訪れるのです。
 シャンパーニュ地方では、現在のようなはっきりとした発泡性を持つシャンパンができるのではなく、生産の途中である程度穏やかに自然に発泡する傾向にありました。

 自然に発泡するとはどういうことでしょうか?
シャンパーニュ地方はフランスの中でも冷涼な地域です。この冷涼な気候の下では葡萄の収穫はブドウの成熟を待ち晩秋まで延ばさざるを得ません。そうなると、果皮に付いている酵母によるアルコール発酵の時間が限られ冬を迎えます。冬には酵母は寒さで活動を停止してしまいます。
しかし、春になると酵母は目を覚まし、再び発酵を始め炭酸ガスを放出するのです。

 このような自然発砲のやや泡立つワインは、一部の貴族階級や富裕層の間で好まれるようになり、徐々に発泡性ワインが求められるようになってきたのです。ただ、現在のようなガス圧の高い発泡性ワインのように安定して、大量に、品質よく、そして危険を伴うことなく造ることができるように製造技術が確立するまで19世紀まで待たなければなりませんでした。

冬のシャンパーニュ地方
冬のシャンパーニュ地方

(「シャンパーニュワイン」という言葉が使われるようになるのは1690年から)

  「自然発泡ワインを如何に安定して造るか」の課題に立ちはだかった最初の壁は、泡立つガスに対する対処方です。
樽ではなく瓶を用いて泡を閉じ込める瓶の口にコルクを用いてガスの漏れを防ぐ、という方法で発泡性ワインの発展の口火が切られました。

 1685年シャンパーニュ地方で初めてコルク栓が登場します。
泡は、樽の中ではすぐに消えてしまうのですが、コルクを用いれば瓶の中に閉じ込めることができるようになったのです。ドン・ピエール・ペリニョンがその一助に貢献したのですが、この醸造方法の考案は、その後に発泡の仕組みを研究し人工的に発泡技術を確立させる転機になったのです。

 シャンパンは、「冷涼なシャンパーニュ地方という特定の地域での自然発泡があった」からこそのワインです。
そして、この発泡性ワインの登場は、ワインの名称をも変えました。
フランスでは、中世まですべてのワインを総称して「ヴァン・ド・フランス」(フランスのワイン)と呼んでいましたが、1690年から、「ヴァン・ド・シャンパーニュ」(シャンパーニュのワイン)という言葉が使われるようになったのです。

(英国が先駆け、ドン・ピエール・ペリニョンが取って代わる)

 実は、自然発泡性ワインに注目したのは、フランスでなく英国です。
ロンドンではすでに1660年ころに自然発泡性ワインが流行していました。
フランス人のサン・エヴェルモンという大のシャンパーニュワイン党の人物が、ロンドンに居着き、シャンパーニュ地方のワインを取り寄せて泡立つワインを造っていたのです。

 英国でこのようなことができた背景には2つの英国ならではの背景がありました。
 1つ目はコルクの使用が普及していたこと
樽の中に発泡性ワインを長時間入れておくと味が鈍るので、瓶に入れて栓をしておくのが良く、その栓にコルクを採用する環境が整っていました。
イギリスは古くからスペインやポルトガルと交易して、エールの瓶詰後の栓に使用されていたことからワインにも適用されたのです。

 2つ目はガラス産業の発展
ガラス製造について、1615年には法律で燃料を木材でなく石炭の使用を義務づけ厚いガラスが普及していました。
英国のワイン商人たちは1630年からずっと石炭ガラス製のボトルを使っていました。
この厚いガラス瓶では、その後フランスで長期間問題になったガスによる瓶の爆発はほとんど起こらなかったとも言われます。

 そして、英国の王政復古(1660年)から10年くらいの間に、チャールズ2世の宮廷やロンドンの上流階級ではシャンパンが最も流行するワインになりました。
当初名声を博していたのは、サン・エヴェルモンと同じシャンパーニュワイン党のシルリー伯という人物のシャンパンでしたが、17世紀末になるとドン・ピエール・ペリニョンのシャンパンが輸入されるようになりました。

(フランスでも発泡性ワインはあったのだが・・・)

 ところで、実は、発泡性ワインはフランスで100年以上前に造られていました。1516年には南フランスのラングドック地方で。
地中海の近くのワイン産地リムーにあるベネディクト派のサン・ティエール修道院で最初のスパークリングワインの取引があった、との記録があります。
 リムーはパリから離れているためワイン文化に影響を及ぼすことがなく、フランスの発泡性ワインが注目されるのはドンペリの時代まで待たなければなりませんでした。

17~18世紀年表
17~18世紀年表
冬のシャンパーニュ地方
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